Wednesday, April 27, 2011

クララ・ハスキルの「デッカ・エディション」全11枚組を聴いて

♪音楽千夜一夜 第192夜

心が乱れて落ち着きを失いそうになった日にはクララ・ハスキルのモーツアルトを聴くと、かなり効き目があるから不思議だ。そこには慌てず急がず、ゆっくりと己の信ずる道を歩んでいくおばあさん、酸いも甘いも嚙分けた媼の熟成の音が奏でられている。

若き血がたぎる青春の音楽はそこにはない。人生の黄昏の音楽、あるいはもはやその人は黄泉の国でみまかっていて、死から次の生への途次である中有に向かいながら二短調協奏曲のアレグロを弾いているのかも知れない。そんな音楽。

この選集にはモーツアルトのk271や466、491、459、488、595などのピアノ協奏曲がマルケビッチ、フリッチャイ、バウムガルトナー、スボボダなどの指揮で収められているが、録音の時期やオケの精度の違いはあっても、彼女の演奏の解釈はまったく変わることなく、この世の果ての中有の音楽を孤吟している。

同じモーツアルトのグリュミオーと入れた6つのヴァイオリンソナタも枯淡と優婉のあわいに絶望と希望が点滅するような演奏で、絶品というよりほかにない。そのほか彼女がかつてフィリプスに入れたシュウマン、シューベルト、スカルラッテイ、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ全集も楽しめるベスト盤といえるでしょう。


モーツアルトはパン、バッハはごはん、ベートーヴェンは肉、サティはワサビ 茫洋

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