Saturday, April 09, 2011

朝吹真理子著「きことわ」を読んで

照る日曇る日 第422回 せんだってこの著者の「流跡」という小説、のような女学生の駄作文を読まされて酷評した私でしたが、これはなかなかの佳作だと思いました。 まずタイトルがよろしい。ずーっと「きことわ」という奇妙な言葉と語感が妙に気になって仕方がなかった。キノコの名前かなあ、あんまり有名では古語かしら、と色々想像をたくましゅうしている間に、見事に著者の策謀の罠にとらえられてしまってわたくしは、これあるがゆえに芥川賞を貰えたんだなあ、とはたと思い当たったのでした。 じつはこれはなんとまあ「貴子さんと永遠子さん」というふたりの女性の仲良しこよしの物語なのでして、まあぺこちゃんとぽこちゃんが葉山の別荘で黒髪をわかちがたく結び合わせて眠っているありさまを、「ぺこぽこ」と呼称するに似たようなネーミングなのでした。 それは軽い冗談だとしても、この小説では緑深い海辺の別荘を舞台に少女時代の「きことわ」、そして成人してからの「きことわ」が懐かしい日々をしのび、今と昔が数珠つながりになっているように感じられるその数珠を、かったみにひとつずつまさぐるようにして確かめていく。その瞬間に呼び覚まされる幻視の切なさと鮮やかさを、散文でありながら詩語のような馨と味わいで紡いでいく名人芸に大方の選者は驚嘆したのでしょう。 こんなに若い著者なのに、まるで幸田文か宇野千代のような老成の目を備え、大人の女の機微に鋭く光らせているようです。 きことわとはきこちゃんととわちゃんがとわにあいしあうはなしです ぼうよう

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