Saturday, April 23, 2011

新国立美術館で「シュルレアリスム展」を見て


茫洋物見遊山記第55

パリ・ポンピドゥセンターに腐るほど在庫しているシュールリアリズム、ではなくてシュルレアリスム関連の絵画やドローイングや参考資料などがずらずら並んでいましたが、一等面白かったのはパリ・フォンテーヌ街にあったアンドレ・ブルトン邸のアトリエを撮影したヴィデオでした。

ここにはアジア、アフリカ、イスラムなど古今東西の美術品や骨とう品が所狭しと並べられ、しかもそれらの11点が展覧会の作品を超越するような無類の面白さで、この元祖シュルレアリストの眼力の凄さを雄弁に物語っています。ブルトンの如き既存の文明の価値観に属されない無垢の眼の持ち主であったればこそ、超現実主義なる独創的な美学を編み出すことができたということが如実にわかる映像でしたが、きけばこの貴重な世界文化財を2003年にオークションで解体してしまったとはなんと無法な振る舞いでしょう。馬鹿に付ける薬がないとはこのことです。

2番目の見ものは、ダリが脚本協力をしたルイス・ブニュエルの古典的名作「アンダルシアの犬」と「黄金時代」の映画上映です。冒頭で女性の眼球が剃刀で切断される前者の衝撃は制作されて83年後の今日もなお失せてはいませんし、ワーグナーのトリスタンとイゾルデの伴奏に乗って繰り広げられる「黄金時代」の抜粋は、たった5分間とはいえ当時右翼が爆弾を投げつけた理由が分かるような気がするキッチュな作品です。

肝心の本展の作品では、私の大好きなイヴ・タンギーを筆頭に、ミロ、マグリット、キリコ、ダリ、数は少ないですがピカビアとデルボーが展示されており、シュルレアリスムなどと粋がってはいても、後期印象派の明後日に描かれたことが明々白々なコレクションなのでした。

小説なんかより思想書を読むんだと言うておりし先輩東京高裁長官になりき 茫洋


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