Tuesday, April 05, 2011

日経広告研究所編「基礎から学べる広告の総合講座2011」を読んで

照る日曇る日 第421回 毎年夏に、日経さんが、当代の広告専門家講師による高額会費のセミナーを開催しているのだが、年末になるとそれを要領よく1冊にまとめた本が出るので愛読している。 基礎からなどと遠慮して銘打っているが、年年激しく変化するメディアや広告コミュニケーション理論と施策の現状を、それこそ現場からのホッテスト・レポートという形で生々しく伝えてくれるので、読んで面白く、またためになる実用書として広くお勧めできる好個の専門業界ハンドブックである。 電通や博報堂、大学の偉い大先生の横文字オンパレードの能書き大演説ももちろん毎回お勉強にはなるのだが、それよりもエステーという会社でユニークなホット広告を連発している鹿毛康耳司氏のクリエイティヴ苦労話やサントリーの企業経営と広告を歴代角瓶のキャンペーンなどを事例に生々しく語った久保田和昌氏、さらに東芝の液晶テレビレグザのブランディングを紹介した松本健一郎氏など、やはり宣伝販促の現場で阿修羅のように奮戦している人たちのレポートのほうが断然面白い。 とりわけ今回私の心に刻まれたのは「企業の社会的責任」についてレクチャーした梁瀬和男氏の番外編の挿話だった。 妻を亡くした高校の元校長が、四国八十八カ所巡りを終えて高知空港の和食店で昼食を取った時のこと。ビールとカマスの姿寿司を頼んだ校長が「コップを二つ下さい」というので、どうして二つなのかと不思議に思った店員がカウンターを見やると、くだんの元校長は、亡妻の小さな写真の前の置いたコップにビールを注いで、乾杯しながらなにやら話しかけていた。それと気づいた入社三年目の店員は、出来上がった寿司を持っていくついでに、箸置きと小皿も二つずつ持っていくと、元校長は思わず涙ぐんだという。 高知新聞の記者が書いた「遺影のお客様にもサービス」という99年6月3日の記事を紹介してから梁瀬氏は、「小さな店の二十歳の女子店員でも、とっさにこれだけのことができる。これこそは究極のお客様視点ではないだろうか」と語って、彼の一時間半の講義を締めくくったのであった。 亡き妻と同行二人の旅癒す心づくしの二つの小皿 茫洋

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