Monday, March 01, 2010

「新版クラシックCDの名盤演奏家篇」を読んで

照る日曇る日第329回&♪音楽千夜一夜第114回

音楽評論家の宇野功芳、中野雄、福島章恭の3氏によるクラシックCD批評です。私の好き嫌いや評価とは異なる部分もありますが、小沢征爾の音楽の程度がいかに低いか、アイザック・スターンを中核とするユダヤ・マフィアがチョン・キョンファなどの異端分子をいかに過酷に弾圧したか等々、あっと驚く音楽談義が満載です。

さて本邦に音楽評論家多しといえども、吉田秀和氏と宇野功芳氏ほど我が国のクラシックファンに決定的な影響を与え、今なお与え続けている人物はいないでしょう。
前者は当時無名だったグレン・グールドを世に送り出し、晩年のホロビッツの演奏を「壊れた骨董品」と評したことで、後者は偉大な指揮者朝比奈隆の令名を一躍高めたことによって、凡百のヒョーロン家どもがロバの耳の持ち主であることをあざやかに証明してみせました。朝比奈氏本人がつねづね「自分の今日あるは宇野氏のお陰です」と語っていたことがなによりの証拠です。

しかしそれだけではありません。クナパーツブッシュやシューリヒト、ムラビンスキーの指揮の素晴らしさを声を大にして唱え続け、ついにその「洛陽の音価」を高からしめたことも宇野氏ならではの大きな功績でしょう。既成の権威や固定観念に左右されず、ただ自分の耳だけを信じて演奏の良し悪しを断固として下す氏には幾百万の敵がいるのでしょうが、熱狂的な信者やファンもまた多いようです。

その宇野氏が、本書で耳寄りな話を書いています。なんでも私の大嫌いな元N響音楽監督のシャルル・デュトワはめっぽう女性にもてる色男で、(かつてはアルゲリッチと結婚していたことは私も知っていましたが)、韓国の天才的ヴァイオリニストのチョン・キョンファ、そして最近ではわが国の諏訪内晶子と付き合って子をなしたために、それがもとで夫からのDVに遭ったというのです。あくまでも噂話だと断ってはありますが、もし本当ならそれが彼女の長期にわたる低迷の理由ではないでしょうか。

ケンウッドの代表取締役を務めてから音楽プロデューサーとして世界を駆け回っている中野氏のお好みが、かつてロイヤル・コンセルトヘボウで長くコンマスを務めたヘルマン・クレバースとは我が意を得たりの思いでした。このクレバースとウイーンフィルのヘッツエルこそ、わが偏愛してやまないヴァイオリニストでしたから。
また中野氏がハーゲンやエマーソン、アルバンベルクSQなどを評価せず、歴史に残るカルテットは、ブッシュ、バリリ、ウイーン・コンツエルトハウス、アマデウスSQと断言しているのもさすがです。

最後に、宇野、中野両氏にくらべて30歳程も若い福島氏が、「CDの寿命はおよそ30年だ!」と断言しているのには驚きました。実際つい先日私が昔買ったグラモフォンのホロビッツの盤面が陥没崩壊しているのを目のあたりにして衝撃を受けたばかりだからです。3度の食事を2度にしてせっせと買い集めた数万枚の私のコレクションの運命やいかに?

♪美しきヴァイオリニストをたぶらかす希代の色事師とく本業に戻れ 茫洋

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