Saturday, March 27, 2010

ブーレーズ指揮ドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」を視聴して

♪音楽千夜一夜第123回

数々の印象深い銘品をつくってくれたドビュッシーですが、やはりこれがいちばんの代表作でせう。あれほど傾倒したワーグナーから足を洗い、独立独歩で創造した新しい楽の音がここには香り高く鳴り響いています。

指揮者ブーレーズの評価は年経るごとに高まり、いまやアーノンクールと並んで斯界の一大権威と化した感がありますが、冷静に振り返ってみれば昔のクリーブランド時代やウイーンコンチエルトムジークス創成時代の方が双方ともにはるかにマシな演奏をしていたと言えそうです。どう考えても面白くもおかしくもない、それでいてもったいぶったこけおどしの、似ても焼いても食えないタヌキおやじの指揮ぶりに熱狂する人の気持ちが私のようなド素人にはいくら聞いてもてんわからないのでしゅが…。

そんな御大ではありますが、1992年3月になぜだか英国に飛んで、ウエールズ・ナショナル・オペラ管弦楽団と演奏した「ペレアストメリザンド」ではそれなりに楽しめる劇伴をつとめて破綻はありませぬ。メリザンドはアリスン・ハーグレイ、ペレアスはニール・アーチャー、ゴローはドナルド・マックスウエル、老王アルケルはケニス・コックスという欧米人の歌手ばかりが出演していますが、フランス語の発音に欠ける点はなさそうです。

演出はベルリン生まれのペーター・シュタインという人ですが、第3幕第一場でアリスン・ハーグレイのブロンドの長く美しい自毛を使って非常に官能的な愛の戯れを演じさせています。城塞の窓辺のペレアスがあおむけざまに垂らした髪を庭に立つメリザンドがつかんで愛撫し接吻の嵐を降らせる情景こそこのオペラの白眉でしょう。

地上では許されない無垢の愛の交歓を目撃したペレアスの義兄ゴローは嫉妬に駆られてついに弟を殺してしまい、衝撃を受けたメリザンドもあとを追うようにして死んでしまいます。ある点まではワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」に似ていますが、聴いてみると全然違う音楽になっています。どちらかといえばドビュッシーの方が陰影に富む複雑で高級な音楽といえるでしょうか。

「ペレアストメリザンド」は数あるオペラのなかでヤナーチエックの「利口な女狐の物語」と並んで私がいっとう好きなオペラ(いっとう嫌いなのはプロコフィエフの「三つのオレンジへの恋」)なのですが、これまであまり演奏の機会に恵まれず、個人的には七〇年代の終わりにパリのシャンゼリゼ劇場で見たマゼール指揮パリ管の公演がもっとも感動的なものでした。(あの頃のマゼールは良かった!)

この「ペレアストメリザンド」の演奏は、それに次ぐものとして、長く手元に置きたいと思っています。

♪私をリストラした人をリストラした人がリストラされました 茫洋

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