Sunday, March 21, 2010

神奈川県立近代美術館で「松谷武判展」を見る

茫洋物見遊山記第20回&鎌倉ちょっと不思議な物語第212回

松谷武判は1937年大阪生まれのアーチスト。1954年より日本画を学び、戦後はあの伝説的な具体美術協会の前衛美術運動に参加し、1966年以降は「人の真似をするな。誰もやらないことをやれ」をモットーにパリで制作を続けているそうです。

そういう経歴の人とも知らずにのこのこ入っていきましたら、やたら暗くて黒いものばかりで面喰いました。大半の作品が、白と黒を基調に鉛筆で描き重ねて黒の線と黒の面を強調しています。とりわけビニール系接着材の黒いボンドを、キャンバスに円く堆く浮き彫り(レリーフ)したものが多いのですが、しかし女性の乳房や禅坊主の立体的な墨書を思わせるそれらのマッス(塊)はけっして無秩序な立方体ではなく、きわめて稠密に計画された美意識によって厳しく貫かれています。

会場狭しと押し寄せる黒、黒、黒のインパクト…。そのモノトーンとはおそらく人間と世界と宇宙の根源にひそんでいる暗黒物質の重力を象徴しているのではないでしょうか。会場のあちこちで渦巻き流動し続けている黒い球体から発せられる未知のエネルギーが感じられ、私たちの存在を背後から支えるとともに、私たちの未来と運命を領導している不可知な物質の力を感じさせる不思議なコレクションです。

なおこの「松谷武判展」は、来る3月28日まで神奈川県立近代美術館鎌倉で開催されています。

♪辛夷咲き野鴨繕い黄蝶舞い鶯鳴くなり弥生の廿日 茫洋

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