♪音楽千夜一夜第118回
2008年6月下旬から7月1日までかけてスイスのチュウリヒ歌劇場で行われた公演を収録・編集したビデオを見ました。
指揮者のメストはこのビゼーの名作オペラを♪すいすいすいったららったすらすらすいのすい、とまるで楽譜の内部を植木ツバメが通り抜けるような軽快さで演奏いたします。
山崎浩太郎氏によれば、こういう手口がいわゆるひとつのなうい(←老人語)現代的な劇伴方法で、これこそが今後の指揮の主流になるのだ、などと偉そうに抜かしております。
しかし馬鹿たり、こんな音楽的真実から限りなく逸脱してあらぬ方向に逃走するような卑劣な演奏の、どこがオペラであり、どこがビゼーなのでしょう。お前たちはさだめしかのフルトヴェングラーのモーツアルトのダポンテオペラの劇伴など一度も耳にしたことがないのだろうよ。耳をほじってよーく聞いてみろ、愚か者よ。
また山崎氏のこのような言説は、彼が10年前に新進ひょおろんかとしてデビューしたばらいのころ、ナクソスから発売された30年代のメットのヴェルディのピコなどが指揮したCDを口をきわめて褒め称えて、かうした血沸き肉躍る狂熱的な音楽ダンスこそが、オペラ本来の醍醐味であるというお前さんの正論とてんで矛盾しておるではないか。
そういう非オペラ的な指揮者が奏でる非オペラ的な演奏にふさわしく、マチアスなんとかという人の演出も、スペインの抜けるような青空の下、わが家の愛犬ムクが兵士どもに頭を撫でられて舞台の端でシッポを振ったり!するという奇妙なものであり、カルメン役のヴェッセリーナ・ペルトゥージもフェッム・ファタールとしての妖艶さと磁力に決定的に欠け、ドンホセも、エスカミリヨも、ちょうどそれに匹敵する程度の歌うたいであり、考えてみれば、そもそもここチュウリヒ歌劇場は、かのカルロス・クラーバーが在籍した時代から、楽員の指揮と技術が落ち込んでどうしようもない3流オペラハウスであったのであり、しょせんはこの程度のカルメンしか俺たちに提供できないザマなのさ。
♪3流のオペラハウスのカルメンを涙を流して聴いているビゼー 茫洋
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