Sunday, February 28, 2010

日伊2組の「ドン・カルロ」を視聴して

♪音楽千夜一夜第113回

こなた我が国の新国立劇場、かたやイタリアのミラノ・スカラ座で行われたヴェルディの中期を代表する傑作オペラ「ドン・カルロ」公演をビデオで見ました。

前者は06年9月16日にミゲル・ゴメス・マルティネス指揮の東フィル、後者は08年12月7日にダニエレ・ガティが指揮したスカラ座管のいずれもライブの演奏ですが、結果的にはそれこそ雲泥の差がつきます。
序奏のホルンの数小節を耳にしただけで勝負あり。日本で一二を争うオペラ巧者の東フィルが、3時間半にわたっていくら懸命に弾いても、ヴェルディの荒々しい血のざわめきと孤独な魂の悲嘆の調べはこれっぽっちも伝わってきません。ドラマも悲劇もイタリアの光と影も感じられない、まるで由良川の蒸留水のような音楽には閉口しました。

熱血漢ガティが統率するスカラ座のアレグロ・コンブリオはここぞという箇所ではフォルテが凄まじく、対照的に第3幕のフィリッポ2世のアリアの劇伴には深い叙情が込められ、緩急自在な歌い方が見事であう。これでは日本勢は到底太刀打ちできません。

歌手陣はというと国王フィリッポ2世は新国立がヴィターリ・コワリョフ、スカラ座はフェルッチョ・フルラネットの対決ですが、当今老練の超ベテラン、フルラネットをしのぐバスを探すのは難しいでしょう。題名役は日本勢がペーテル・ドボルスキー、イタリア勢がスチュアート・ニールですが、後者はちと太りすぎ。エリザベッタ役は新国立の大村博美が長身の清楚な醤油顔で健闘していますが、所詮情熱的な歌唱力においてフィオレンツイア・チエドリンスの敵ではありません。イタリア勢のロドリーゴ役ダリボール・イエニスも素晴らしい存在感を示していました。

演出は双方とも流行のシンプルなスタイルですが、イタリアのステファヌ・ブロンシュウエブがオーソドクスであるのに対して、新国立のマルコ・アルトーロ・コレッリが壁面の移動による頻繁なカット割りを行っていたのが記憶に残りましたが、まずは5分5分というところか。いずれも照明を効果的に使っていました。

 かくて指揮と音楽、主役歌手の歌唱力においてスカラ座チームに大差をつけられてた新国立でしたが、とどめは合唱団の演技とアンサンブル。歌が下手くそなのは仕方がないにしても、洋服を着せられたその洋式チンドン屋のような姿が、依然として浅草オペラさながらであるのは困ったものです。これでは当分本物のヴェルディは初台では無理。やっぱりミラノへ飛ばないと駄目なのでしょうか。


♪よく咲いたねえ頑張ったねえと妻に褒めてもらっているシンビジウム 茫洋

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