Monday, July 11, 2011

ビーチャム指揮「英国音楽集CD6枚組」を聴いて


♪音楽千夜一夜 212

ロイヤルフィルの創始者にして英国音楽の泰斗トーマス・ビーチャム卿が指揮するデーリアスと聞いて胸が躍らぬクラシック愛好家はいないはずだが、聞いてびっくり期待とは裏腹にわが心には初夏のそよ風さえ吹かず、緑の蓮池にささなみひとつ立たなかったのは何故?

あんまり下らぬ賃労働に従事しすぎたためにロバの耳が山羊の耳へと退化してしまったのであろうか? あの名曲「丘を越えて遥かに」も「河の上の夏の夜」も、「春一番のカッコウを聴いて」、さらに「高い丘の歌」、「夜明け前の歌」、「日没の歌」を耳にしても乾き切った魂に一滴の甘露さえ注いではもらえない始末。

かろうじて彼の歌劇「村のロメオとジュリエット」でいささかLP時代の卿との久闊を叙すことができたやうな気もしたが、それとて夏の夜の夢かもしれぬ。仕方なくサー・ジョンとハレ管弦楽団の演奏で聴き直したら、そこにはビーチャムにない北国の男の旅情とロマンネスクが、レブンウスユキソウのような白い花を咲かせていましたよ。ビーチャムは、お国ものよりフランス音楽の方がいいのかもしれぬ。

駅近く線路の傍にカンナ咲き鎌倉の夏今年も来にけり 蝶人

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