Tuesday, December 09, 2008

黄昏の渋谷で「アンドリュー・ワイエス展」を見る

照る日曇る日第199回

遅まきながらはじめて副都心線に乗って、見慣れぬ駅にたどり着き、渋谷東急文化村まで死ぬほど歩いたあとで、アンドリュー・ワイエスの素描、水彩、テンペラを見ました。1917年にアメリカペンシルヴェニア州に生まれた画家はことし91歳、現在もなお元気に描き続けているそうです。

荒涼とした草原にたたずむいかにも頑固そうな農夫、丘の上の孤独な家、鳥や鹿や樹木。とある古い農家の一角に差し込む午後の光線、砂のようにザラザラした感触の若い女の素肌、突然降ってくる粉雪……、彼は本国と同様わが国でも人気が高いそうですが、いかにも現代人に受けそうな画題とタッチをしています。極北に生きる禅僧のような異端者の孤独な魂は、わたしたち現代人の心にかくもたやすく触れ合うのでしょうか。

が、じっと眺めているうちに、画相といい表現といいあまりにも表面的な感じがしてだんだん肌寒い気分に襲われてきました。こういってはいけないかもしれないが、あまりにも通俗的で感傷的な作風ではないだろうか。こんなもん、もしかしてお金儲けのためにかきなぐっているのではないだろうか。もしかしてフェイクではないだろうか、という疑いです。

もとより私などに偽物とまで断言する勇気はありませんが、(新設された地下鉄副都心線といい安藤忠雄設計とやらの渋谷駅といい、道玄坂の汚らしさといい)残念ながら最近の展覧会のなかではいちばん共感できなかったシロモノでした。

♪雪でも降れだんだん東京が厭になる 茫洋

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