Tuesday, September 30, 2008

若林宣編「戦う広告」を読んで




照る日曇る日第166回

大東亜戦争当時の日本は、国も国民も異常だったが、広告も異常だった。

「撃ちてし止まん」、だの「欲しがりません勝つまでは」、だの「七生報国」などという大政翼賛会のおかかえコピーライターが書いた見事な?檄文に産業界は一斉に飛びついた。

「億兆一心非常時突」「堅忍持久は最後の勝利だ」「土守る心が護る瑞穂国」(いずれも朝日新聞)、「健康翼賛」(わかもと本舗)、「鉛筆も兵器だ」「着剣した鉛筆」(トンボ鉛筆)、「スパイのご用心」(三菱鉛筆)、「机上挺身隊」(地球鉛筆)、「進め一億火の玉だ」(東芝)、「進め進め突撃だ、驕鬼米英撃滅の日まで」(塩野義製薬)、「一億挺身、報復増産」(住友化学工業)、「送れ飛行機、貯め抜け戦費」(住友銀行)、「みたみわれ大君にすべてを捧げささげたてまつらん」(三和銀行)みたみわれ力のかぎり働く抜かん(日本紅茶)、「皇国再起」(三和銀行)「国民総特攻」(住友通信工業)


などという現在も名前こそ一部変わってもしぶとく存続している大企業の戦争中の広告を眺めていると、つねに「新体制」に追随して権力と大衆に媚びるこの隠微な接客業の下卑た奴隷根性が、なまじ私自身にも見おぼえがあるだけに、見る者の心胆をそぞろ寒からしめるのである。

そして時と所、対象敵こそ異なるものの、今日も広告代理店や制作会社の片隅で、「屠れ米英我らの敵だ」、「感謝貯蓄は投資報国で」、「見敵必殺この戦果」、「富国徴兵堅忍持久」、「諸君の友達を射殺したアメリカの飛行機をたたき落とすために」などと同工異曲の大衆俗耳詩歌を作詞作曲する数多くの広告戦士たちが、60年前とまったく同一の精神構造とリテラシー機能を駆使して華やかに活躍している。

一言にして尽くせば、恐るべき破壊兵器が、純粋無垢な中立的科学者の脳髄から生まれてきたように、戦争と平和のイデオロギーは、まったく無思想な純粋言語技術専門家のお筆先きから今も昔も誕生するのである。


道端に斃れし獣一匹さも余の死骸に似たり 茫洋

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