Wednesday, September 03, 2008

小川国夫著「止島」を読んで

照る日曇る日第154回

これも最近物故した作家の遺作短編小説集である。晩夏の昼下がり、一枚1枚拝みながら味読しました。
「しのさん」という少女に主人公は2回ほどつかみかかるが、ひらりと逃げられてしまう。しかしみなしごの彼女は若くして肺病で亡くなってしまう。

「三輪川という川の川口の近くに焼き場があるもんですから、そこで焼きました。五人ばかり人が来て、若宮の家からも人が来ることは来ましたが、あんなにひっそりしたちり焼きも滅多にはないでしょう。われを忘れていたのは、結局私たち3人だけでしたでしょう。火が入り赤々と焼けていくのを、かまどのうしろの耐火煉瓦を一箇はずしてもらって、みとれていました。しのさんのあぶらが樋をつたわって、三輪川へ落ちる音も聞きました。これで終わりか、と思っていたんです。」(37p)

あるいは「未完の少年像」における海軍少尉の友人、渋谷嘉一郎との最後の会話。

「ぼくはお国のために死にますが、君は勉強してください」
特攻隊で「見事玉砕した」その友人は、2日か3日の故郷滞在中に弟に
「鹿屋に戻りたくないと言ったのだそうです。その弟さんから聞きました。これは小説ではありません。ですから、あるがままで怖ろしい意味を持っているのです。」(125p)

そうは言ってもこれは小川国夫の小説の中の言葉であって、つまり彼の小説はこのように怖いのである。

♪輪舞 輪舞 輪舞
三組の蛇の目蝶のカップルが
生き合いの空を舞っていた 茫洋

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