Thursday, September 11, 2008

西暦二〇〇八年茫洋葉月歌日記 正編

♪ある晴れた日に その38


脳天を震撼させてアブラ鳴く

一日に二匹の蝉を拾いけり

幼虫をトイレに捨てたる息子かな

先祖累代油蝉は鳴き続けてきた

世界一速き男の脇見かな

観衆を見物しつつゴールせり

敗者にもわれが授けむ月桂樹

利尻島一軒の魚屋もない豊かさよ

全村の踊りは長し利尻町


新宿の西口地下の中華屋でフィリピン女性が運びしラーメンを食う

健ちゃんが卑猥といいしモミジアオイ臆面もなく赤く咲きけり 

生まれつき障碍のある油ゼミ桜の幹に止まらせてやりぬ 

道野辺の桜の幹に止まらせぬ飛べずにもがく油蝉


電車に乗り飛行機に乗りてから船に乗り利尻礼文の海山に着きたり

利尻には利尻夏蝉、礼文には礼文夏蝉ひがなジジッと鳴きおり

いつまでも村人たちは踊りたり余りに短き利尻の夏に

漆黒の闇を揺るがす大太鼓 利尻の民はみな踊りたり

大太鼓利尻の夜を揺るがせて老若男女みな踊りたり

選挙迫り地元議員は浴衣着て山車に跨り太鼓叩くも

沓形の港に霧は深くして今日のウニ漁中止ならんか

ニシンども浜に押し寄せ村人を歓喜させたるかの日なつかし

利尻にはただ一軒の魚屋なし魚屋なしに魚喰う人の幸

わが国の最北端の岬にて営業す民宿スコトンはとことん商人

樺太を追われて来たるアザラシはサハリン1、2の犠牲者なるかな

リーダーは頭を一旋加速せりいずこへ急ぐや樺太アザラシ

きのうオホーツクより南下せるアザラシの群れ日本海目指す

利尻富士に聖なる神が居ますゆえ蛇は棲まぬと親爺説きけり

荒き波荒き風より生まれたり荒磯に咲けるあら波の華

福岡や沖縄生まれの人もいて人口5千の最果ての島

バスガイドはなんと沖縄生まれなり人口5千の最果ての島

桃太郎が空に向かって投げつけし強大な岩を桃岩というにや

にやうにやうと哀しき声にて鳴きにけり最果ての空にウミネコどもは

ウミネコはかうかうとも鳴いていた最北の地の最果ての空

ノコギリソウツリガネニンジンウスユキソウエゾカワラナデシコなど咲いておりたり

朝五時にサイレン鳴りて島民はこぞって昆布漁を支援するなり

昆布干しは過酷な仕事よ村人はいくたびも葉を浜に並べて

「冷た貝」に食べられてしまった「小巻貝」礼文の浜に静かに眠る

さいはての冷たき海に沈みけり真っ赤に燃えし礼文の夕陽は

立秋の宗谷の海が尽きるところ水平線に樺太現る

最北の宗谷岬の突端で遥かなる島樺太見たり

樺太はわが指呼の間に横たわる海と空とが接するところに

サハリンと呼ばず樺太と言うバスガイド国家主義者ならねど好ましと見る

台湾人は怒鳴るがごとく会話せり礼文稚内のフェリーの中で

稚内の青物市場で買った富良野メロン余す所なく食べにけり

稚内の生鮮市場で買うた蟹一匹残らずわれ食いにけり

遠ざかる利尻礼文の海と山わたしの夏がゆるゆる暮れて

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