Tuesday, December 26, 2006

「元禄忠臣蔵」千秋楽を観る

「元禄忠臣蔵」千秋楽を観る

これは江戸時代の仮名手本忠臣蔵ではない。

真山青果(尾崎紅葉の高弟、小栗風葉の弟子)が昭和に入ってから書いた近現代版の忠臣蔵である。(岩波文庫で全3冊です)

歌舞伎の楽しさは、踊りと音楽とセリフの入ったお芝居(演劇)の三要素のアマルガムにあるのに、この元禄忠臣蔵には最後のものしか用意されていないからつまらない。

歌舞伎の本質である「慰霊」はあっても、「カブく」や「ケレン」や夢幻性がないから、物足りない。歌舞伎18番などの古典とは違って、新派歌舞伎、いや新劇歌舞伎なのである。


しかし坪内逍遥、築地小劇場以来のリアリズムの表現が脚本の底流にあって、そのコンテキストでいわば歌舞伎を本歌取りしているから、大石内蔵助や堀部安兵衛や磯貝十郎左衛門など個人の思想や苦悩がイプセン劇のように浮き彫りになる。
内蔵助にいたっては、討ち入りの理由は幕府への反抗ではなく浅野内匠頭のうらみをはらすことだけだ、まるでブルータスのように演説したりする。

だから役者のセリフが生命である。そこが青果の苦心であった。

そして国立劇場創立40周年記念3ヶ月連続公演「元禄忠臣蔵」は、松本幸四郎の内蔵助の、「これで初一念が届きました」の胸をえぐるような一言で、全編の大団円を告げるのであった。

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