Saturday, October 20, 2012

神宮、熊野、高野山を巡る




茫洋物見遊山記第93 

せんだって長年にわたっての念願であったお伊勢さんに詣でることができました。

来年には恒例の式年遷宮が行われると聞き、できればその前にお参りしておきたかったのです。

 はじめに訪れた外宮にも増して巨きな樹林に囲まれて神聖の気に満ちていたのは五十鈴川に架かる宇治橋を渡って額づいた内宮で、神明造の建築様式は本邦固有の改訂を加えられているとはいえ東南アジアから伝来した南方風の威容を誇っていました。

なんでも神道の「常若」の思想によって二十年ごとに建て替えられるそうですが、せっかく苔むして自然と一体化してきた建造物を解体してしまうとは勿体ない。もしも初代の神宮がそのままこの地に聳え立っていたとしたら、世界最高の世界遺産になっていたことでしょう。歴史的な価値ということでは、新しい建築など何の値打ちもありません。

 今回は二泊三日のバス旅行でしたが、その二日目には熊野速玉大社、那智の滝、熊野那智大社、青岸渡寺、熊野古道、三日目には勝浦港から熊野本宮大社、十津川村の谷瀬の吊り橋を経て長駆高野山の奥の院を訪ねるという、じつに盛り沢山な三大聖地巡行の旅でした。

しかし私たちの乗ったバスが次第に紀伊山地の奥山に登って行くにつれ、熊野川流域の山肌を切り裂き、橋や田や無数の住宅をひと呑みにし押し流した昨年秋の台風の爪跡をまざまざと見せつけられ、一入生死の関頭に立って無常を達観する旅とはあいなりました。

洪水に備えて造られたはずのダムがものの見事に決壊し、それが被害をさらに大きくしたとも考えられるのですが、本来なら清き流れであるはずの大河が氾濫し、無惨に崩壊した河川敷や道路や集落をまるで巨象に挑む蟻のようにブルドーザーがのろのろ移動している姿を見るにつけ、人知は所詮大自然の暴威には及ばぬものかという暗澹たる気分に陥らざるをえませんでした。

 台風で本社を流されしバスに乗り初日170、2日目250、3日目270キロを走破せり 蝶人

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