Sunday, October 28, 2012

鎌倉交響楽団のマーラーの交響曲第2番を聴いて




音楽千夜一夜 285 鎌倉ちょっと不思議な物語第264

ご当地の鎌響が創立50周年を迎え、その記念すべき第100回の定期演奏会でマーラーの交響曲第2番「復活」を演奏しました。指揮者は2008年11月1日に同じマーラーの第5番のシンフォニーを力演しおおせた横島勝人氏でしたが、私はラトル&ベルリン、アバド&ルツエルンを耳にした以上の感銘と興奮を覚えました。

マーラーの音楽から聴こえてくるのは西欧の古典音楽のすべての達成、バッハやヘンデル、ヴィヴァルディ、ベートーヴェン、モザール、シューベルト、メンデルスゾーン、ベルリオーズ、ウイーンモダン派の音楽のすべてのアマルガム、クラシック音楽の近代のどんづまりの苦悩と絶望と背徳と回心と自己放棄の偉大なごみ箱の百花繚乱です。

素晴らしい膂力に満ち満ちた指揮者に率いられた当夜の鎌響は、第1楽章の深い一撃によって開始される闘争に疲れた英雄の生涯をまずは破綻なく演じおおせ、マーラー自身によって指定された5分間の休止を終えると、モーツアルトの緩徐楽章を思わせるアンダンテ・モデラートを天使の夢のように回想し、続いて悪夢のようなスケルッツオに突入します。

第4楽章では深く単純な信仰への回帰をうながすメゾソプラノ木下康子の玲瓏玉のごときアルトの深々とした朗唱が大ホールの隅々まで満たしそれが会場の外で鳴る金管楽器のコラールと天国的な調和を遂げていました。

演奏時間40分になんなんとする終曲の第5楽章に入ってもオーケストラは美感と緊張を絶やすことなく全人未踏の荒野を突き進み、人世の極北で遭遇した神の幻影の前で法悦の歌をうたいつづけます。ここで特筆すべきは鎌倉・戸塚のシニア合唱団によっておごそかに歌われた「私は逝く、生きるために!」の復活の賛歌で、堂を埋め尽くした聴衆はみずからも心の中の楽器を総奏し、壇上のコーラスと共に唇を動かしながら、この奇跡のような宴に参加し、その魂をいくぶんかは浄化することができたのでした。

ほんとうの音楽のよろこびと摂理は、ルーチンとマンネリの疲労困憊の泥沼にあがくプロオケの中ではなく、「一期一会のおんぐあく大革命」に燃え尽きるアマチュアの演奏のパトスとエートスの内部にあるということは、私だけでなくもはや世界の常識ですが、そのことをまたしても最上のレベルで達成したのが当夜の記念碑的な演奏でした。


ほむべきかな もろびとこぞりて称えよ奇跡の夜 こんな演奏を聴けるとは夢にも思わなかった 生きていて良かった 鎌響よありがとう 蝶人

*また別の夜の思い出

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