Saturday, October 27, 2012

鎌倉文学館で「源実朝展」を見て




茫洋物見遊山記第94  鎌倉ちょっと不思議な物語第263


生誕820年を期しての特別展ですが、狭い2つの会場に並んでいるのは太宰治の小説や斎藤茂吉、小林秀雄、吉本隆明などの実朝論の生原稿、それからいわゆる鎌倉文士どもが色紙に書いた実朝の歌くらいでたいしたものはありません。

それでもいくつかの発見はあって、正岡子規がその生涯をつうじて清書し続けた古今の俳人歌人の作品の墨痕はいまなお鮮やかで、これが一字一句心をこめて記されているさまは般若心経の写教に似ている。明治の短詩形文学の創始者のひたむきな心根にぢかに触れたような厳粛な気持ちになりました。

昔から文人は求めに応じて色紙に揮毫したりすることが多いようですが、不用意に書かれたこれが彼らの人となりをもののみごとに露呈するから面白い。名前はいちいち挙げませんが、あの有名な大作家がこんなつまらない書を書くのかと一〇〇年の恋も一瞬で興ざめになることもままあるので、未来の大作家を目指す人は要注意です。

彼らは自分の好きな実朝の和歌を自分の書で書きおろしているのですが、会場に並んだ筆跡に感銘を受けたのは葉山に住む詩人高橋陸郎ただ一人でした。

そんな次第でいくぶん期待外れに終わった展覧会の会場を出ると、由比ヶ浜から遠く伊豆大島を望む相模湾を背景に赤白黄色の美しい薔薇が咲き乱れており、それらの色と香りがこれで三カ月仕事の無い猫背の労働者の疲れた心を慰めてくれるようでした。


ためらいも恥も無く色紙に書きなぐるほんにお前はアホ馬鹿文士 蝶人

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