闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.179
仲代達矢が主演する格調高い時代劇。寛永6年に井伊家の屋敷で腹を切りたいと貧乏侍が頼みに来る。当時商人を中心とした貨幣経済の波が下層武士階級を食うや食わずの悲惨な状態に突き落としていたが、困り果てた侍がそういう名目で大家を訪れ、いくばくかの金子を貰って引き揚げるケースが頻発していたんだそうだ。
しかしそんな風潮に業を煮やした井伊家の代官(三国連太郎)とその手下たちは、訪問者(仲代達也の娘婿)の表向きの要請どおりに切腹させる、しかも売り払った真剣ならぬ竹光で。その惨たらしい最期を知った義父は息子の敵の代官屋敷に乗り込んで血刀を振るって壮絶な復讐劇を繰り広げる。
幕府の重臣井伊家にあるまじき非人情な仕打ちに抗議するいわば自爆テロで、そのチャンバラの大迫力を求めるのにやぶさかではないが、冷静に考えると竹光での切腹を強要はたしかに非道の仕打ちであるが、そもそもいくら貧困の底に喘いでいるとはいえ、大名家の庭先を借りて自死すると称して金品をねだりに行く根性そのものが浅間しい。
その点をないがしろにして大名家の横暴や自己保身を難詰するという原作シナリオのほうが片手落ちなのである。竹光で腹を切る映画の音楽も武満徹。遠い親戚の五味龍太郎が悪役で出演していて嬉しかったが、それにしても実に後味の悪い映画であった。
ガガズミの赤は野薔薇の赤より紅くしてサネカズラ、ピラカンサ我が家は赤い
蝶人
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