Friday, December 09, 2011

ジョルジュ・プレートル指揮ウィーン響の「マーラー交響曲第5番」を聞いて


♪音楽千夜一夜 231

これは驚いた。どこまでも透明で明確で真率な音楽が、最高の音質と最高の棒で滔々と流れていく。ワルターからバンスタイン、テンシュタットを経てアバド、シノーポリ、ラトルまで幾星霜にわたって紆余曲折のかぎりをつくしてきたマーラー演奏の、いわゆるひとつの決定的名盤がついにリリースされた感が深い。

1991年5月19日にウインコンツエルトハウスで行われたライヴ演奏だというのに、プレートルの棒は冴えに冴えわたり、書かれた音符の底の底まで眼光紙背に徹してウィーン響を完璧に牽引する。間違えてはいけない、こういう指揮者だけをマエストロと呼ぶのだ。

かようにどんなに言葉を尽くして褒めすぎにはならない「音楽的超名演」なのだが、惜しむらくはこの演奏からはマーラーそのひとの孤独や悲惨や苦悩のひとかけらも聞こえてはこない。おそらくプレートルが音化しようとしたものは、マーラーの音符に過ぎず、彼の人物や音楽観ではなかった。マーラーに傾倒し、愛するがゆえに演奏しようとしたワルターやクレンペラー、バンスタインやテンシュタットと鋭く一線を画するものはその一点である。

マーラーを好きでも嫌いでもない人がマーラーを名演してもこりゃ詮無いわなあ 蝶人

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