茫洋物見遊山記第73回
90歳になんなんとする、いや確かもっと年長組のはずの洋画家の一大回顧展覧会である。
画家は福岡の飯塚炭鉱の近辺で生まれた人らしく、幼時の記憶がボタ山とリンクしていて、その黒グロとした影像が、渡欧したベルギーの橙色の鉱山とオーバーラップしていく。
長い海外生活は彼に表層の自由と色彩の氾濫を与えたが、それはうわべだけの虚飾に過ぎず、帰国した画家は本邦の本来本然の実在と激しく格闘するようになる。
しかしそうやって悪戦苦闘しているうちに90年代にはそういう堅苦しい問題意識そのものがどうでもよくなって、というか無化されていき、ついに2000年代に突入すると武者小路実篤的ないわば無為にして化すとでもいう風な融通無下の心境に至りそうになるのだが、このいっけんよさげな行き方を、わたくし的には断固寸止めしてくれないと困る。
あなたのそのトレンドを、かの一休禅師や老子に比べると、たといおヌシが百歳になろうがまだまだ洟垂れ小僧の遊びの世界にとどまるに違いない。失礼ながら、貴君が戯れに描いた最新版の自画像に、その最高の到達点と遥かな未達点がともに明示されているではないか。
ああ、まことに芸術は長く、人世は短い。
病院では年齢と生年月日を言わせる。もひとつ「老若男女」と言わせてみなさい。蝶人
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