Wednesday, April 29, 2009

西暦2009年卯月茫洋歌日記

♪ある晴れた日に 第57回


鎌倉の花の都に遊びけり

我こそは森の王なるぞおろち桜

蝶と見えまた花と見え散る桜

テポドンを嚥下しけり春の海

鰤頭とろとろ煮られ花曇り

われもまた酔って全裸で叫んでみたし

桜咲く生きてしあればそれでよし

桜散る仕出かししことの後始末

懐かしきボヘミアの歌うたうフランツカフカ

           *

8時半に演説終えし候補者と隣り合わせの京急バスに乗る

見知らぬ人に満面の笑顔振舞われ路地に逃げ込む市議会選挙

酔っ払って裸になって叫ぶ人それを警察に突き出す人

君たちも一緒に裸で叫びなさいガタガタ騒ぐなアホ馬鹿マスコミ

おおアオバセセリよ お前にこんなところで出くわすとはまるで夢のようだ

口丹波由良川の水澄みわたり蚕の里をゆるゆる巡る

ついぞ知らずあわれ北条の陰謀に滅亡するとは

鳥歌い花は弾けて水緩み箱根全山笑いさざめく

懐かしき巡り合いかな地に伏して万事を捨ててなお眠る人

猫どもは恐れも知らず日溜まりに遊び戯れ眠り呆けたり

名も知らぬあまたの花が咲き乱れシュレーゲル蛙鳴く湿生花園

いちりんそう咲きにりんそう咲く花の園さんりんそう求めて池を巡りき

外輪山の雲間を裂きて薄日差しミズバショウの池蛙声さわがし

ひさかたの光のどけき花の園カタクリ散れどマメザクラ咲きたり

腰を折りマイクを振りて歌うなり息子のおはこ千の風に乗って

青池様のおかげをもちて訪れし箱根の森に広がる笑顔 

新宿直久のラーメン&餃子セット750円喰らいおれば黄昏る黄昏る俺っちの人生が

三十六の燃ゆる瞳に見つめられ二十の春にたちかえりけり

老ゆるともカラスはカラス鶴の声宇宙の彼方にさえざえと響く

あら懐かしや狭心症の胸騒ぎ4月8日4時30分

御馴染みの狭心症の胸騒ぎ4月8日の4時半に起こる

白人の男を屠ふり金髪の女を犯さんむとして発作に襲わる

父上と母上より賜りしわが心の臓激しく震う

わが狭き心の谷間の奥底でかの臓物はぶるぶる震え

かつてわが勤めし会社よ強欲の投資ファンドの玩具餌食となりたり

段葛降り積む桜の花びらをエアメールで送りしこともありき

「そりゃあ酷ですよ」緒方拳のドラマのセリフを唱える息子

鎌倉の台の峯を訪ぬれば緑の蛙慌てて逃げおり

フィリピン210円エクアドル350円台湾420円さあどれを買おうか3つのバナナ

春の日の桜が丘の小田急に両脚切られて泣き笑う男

黄セキレイ鳴く上空に飛来しミサイル捜索準備している大型哨戒ヘリコプター

軽やかな「乙女の祈り」に変りたり4月1日鎌倉市清掃車

君の言葉君の振舞い奇妙なれど天からの贈り物とて素直に受けむ

自閉症のわが子に優しき二人の女性いずれも拒食症を病みてけるかな

曲学阿世を断固粉砕怒れる老哲学者の叫びを聴け

着古したセーターが人間より長持ちする考えてみれば不思議だなあ

ヴェテランの運行指導にそっぽ向く新米女性バス運転手かな 


              *

親戚詩集  K兄


新宿駅西口のいちばん代々木に近いトイレから、下のボタンをはめながら出てくるK兄さんと出くわした。
「おお」、と「おお」、「久しぶり」と「お久しぶり」とが期せずしてぶつかった。

折しもラッシュアワーで大混雑する駅構内、
「いまちょうど紀伊国屋でね、君の本を買いに行ってきたんだ」
「あんなくだらない本をわざわざ奥沢から買いにいらしたとは。共著のうえに短い文がちょこっとだけ出ている本だから、お送りしなかったんです。まことに申し訳ありませんでした」
と急いで詫びて、それ以上立ち話もできず、「じゃあ元気で」、「お元気で」と頭を下げたのが永の別れとなってしまった。

春ともなれば奥沢の川面を埋め尽くした桜花―
K兄さん、あなたは初めて上京した私に自由が丘一丘眺めのいい部屋を紹介してくださった。

K兄さん、誇り高き帝国の軍人よ。
一度ならず二度までも米国の駆逐艦に撃沈され、太平洋の波濤に投げ出され、そのつど奇跡的に友軍に救助された歴戦の勇士よ。

胸を張り、背筋を伸ばし、頬を紅潮させ、
「いくさに身を捧げしわが生涯に悔いなし」
と声を張り上げられた、在りし日のあなたの姿を私は忘れない。


み空よりあまたの豚ども天下り地球最後の日は近づけり 茫洋

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