♪バガテルop29
私は何を隠そう民放テレビ大嫌い、NHK衛星放送大好き人間である。その理由はいままでさんざん民放テレビで放送される番組、ではなくて、その番組のおまけで放映されるCMをさんざんつくってきたので、もうCMなんか二度と見たくもないからである。
CMのない番組といえばNHKしかない。そこで朝から晩までNHK、特に衛星放送のニュースと大リーグ野球と海外ドキュメンタリーとよいこの童謡とちりとてちんとFMと映画とクラシック番組を鑑賞し、あとの2種類についてはすべて録画してDVDに収めている。
恐らくその大半は墓場の中でゆっくり鑑賞することになるだろうが、それがまあ私の唯一の趣味といえば趣味である。
私はニュースもCMがみだりに乱入しないNHKの、とくに衛星第一放送の定時放送を好む。理由は第一に私の好きな冷たい美貌のひらゆき姫が出てくるからだが、美形の女子アナにかまけているのは民放も同様だから、この点ではあまり大きな違いはない。思えば80年代のテッド・タナーのCNNがこの素敵な悪趣味を先導したのだ。
理由の第二は、NHKが報道価値が高いと彼らなりに判断した価値観の順番にしたがって、つまり重厚軽薄の濃度の順に、それなりの報道人らしい秩序と規律をもって、事実だけをたんたんと普通の日本語でアナウンスするからである。
多くの民放テレビのように、ニュースと娯楽、犬と猫、味噌と糞とを混同したり、脳天を直撃するような金切り声(特にフジテレビの女子アナ)で絶叫したりしないからである。
番組の最中に食事をしたり、セックスしたり(はしないか)、実際にはその場にいないはずの人物の品格皆無の馬鹿笑いが聞こえたり、いったいどこが面白いんだか食えないメニューを美味そうに食うという虚偽を演出してぬか喜んだり、「実食!」などと奇怪で醜い造語を乱発したり、平気で漢字を間違えたり、それを絶対に訂正してお詫びもしなかったり、ナレーションの7割を体言止めにしたりしないからである。
そして第三に画面のレイアウトが、きれいとまでは言わないが、まずは普通でおとなしいからである。民放の白髪3千丈風の扇情的なテロップ、まずい食い物をマイウーとうなり、腹の中では驚いてもいないのに、ウソオーとおどろいて見せ、まともな情報は皆無でもこれでもかこれでもかと羊頭狗肉を叩き売り、朝のテレ朝の時刻表示の人を馬鹿にしているような異様な大きさを見よ!
民放のほとんどの番組は、私のような棺桶に片方の足を突っ込んでいる超保守的視聴者にとっては糞であり、奇体なガジェットであり、空虚なごらくであり、文字通り無意味な、死せる映像と音声の氾濫である。こんなもん全局今日の午後に突然なくなっても、おいらはちっとも構わないぜ。
ではあるが、しかし民放がぜんぜんだめかというとそんなこともなくて(笑)、先日ビートたけしが主演する松本清張原作のテレビドラマ「点と線」を見て、久しぶりに面白かった。
昔原作を読んだときには1番線から15番線の間に4分間だけ見通せる時間帯があると思っていたのだが、13番線から15番線だというので、それなら40分くらい空白の時間があったのではないかと思ったりしたが、それもやはり私の寄る年波にせなのであろう。
しかし惜しむらくは演出がまるでゆるかった。音楽もおざなりであった。あれだけ制作費を投入するなら、せめて霊界で暇をもてあましているだろう野村芳太郎とか内田吐夢に演出させ、伊福部昭か武満徹に曲をつけさせたかったと思うのは、私だけだろうか。
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