Saturday, November 10, 2007

大澤真幸著「ナショナリズムの由来」を読んで

降っても照っても第72回&勝手に建築観光27回

ファシズムはある過剰性を帯びたナショナリズムであり、その過剰性は通時的には一種の現状変革への熱烈な欲求として、共時的には過剰な人種主義の形態をとり、共同体への亀裂を嫌い、熱狂的な指導者崇拝を伴う。

しかしそのようなファシズムは、民主主義の理想的政体と称されたワイマール共和国の内部で生み出された。ファシズムは、きわめて現代的な現象である、と著者はという。

 さらに著者は、「高さへの意志」は、ナチズムあるいはファシズムの特質のひとつではないか、と指摘している。

事実常に高さを指向するヒトラーは、政務の中心をオーバーザルツベルクの山荘におき、建築家アルベルト・シュペーアにパリの凱旋門の2倍の高さを持つベルリンの凱旋門の建設を命じ、ナチスドイツは、ロンドン空襲に顕著に見られるように、高空からの攻撃に執着した。

ちなみにナチの軍需相で建築家のシュペーアは、映画「ヒトラー最後の12日間」でも顔を出していたが、国会議事堂を中心とした彼の世界首都ゲルマニア=ベルリン都市計画模型を見ながら奇怪な妄想にふけるヒトラーの狂気の姿がリアルに描かれていた。

 かのバベルの塔の神話はさておくとしても、安土城から天下を睥睨した織田信長、大阪城の豊臣秀吉はもとより、ニューヨークの摩天楼のペントハウスの住人たち、現代ニッポンの超高層ビルの最上階に陣取るわがヒルズ族まで、「高さへの意志」をあらわにする人々は跡を絶たない。

うぞうむぞうの民衆たちが蟻のようにうごめく下賤の巷を低く見て、みずからは超高層の高みにおき、エリートだけに許された超特権意識にひたりつづける非人間性と超俗性こそは、古くて新しいファシズムの根っこかもしれない。

またヒトラーは、シュペーアが唱える「新しい建築物は、幾世紀を経ても永遠の美に輝く廃墟となるように設計されなくてはならない」という“廃墟価値の建築論”に心酔していたが、汐留や品川や六本木ヒルズや東京ミッドタウンなど現代ニッポンの最新超高層ビルジングたちは、このナチス建築の理想の忠実な信奉者によっておっ建てられているともいえるだろう。
 
後者の建築は、幾百年の経過を待たずして、「すでにあらかじめ廃墟と化している」点だけが違っているとはいえ、ここにも“現代ファシズム萌え”がちらついているようだ。

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