♪ある晴れた日に その17
学校の帰りの電車で歌いつつ踊る少女を好ましと見る
天高く鳥に告げたり残し柿
何事もなき一日ではなけれども何事もなく今日も暮れたり
斑鳩の法隆寺より柿届く子規が好みし美味しその味
柿食えど鐘は鳴らずに喰らいけりその法隆寺より送りこし柿
鐘ひとつ聴こえぬままに喰らいけりかの法隆寺より送りこし柿
バーキンにもらった飾りでクリスマス
大地震来たれば山のこの芝を燃さば大丈夫とわが妻は言う
よろばいて地低く飛ぶやヤマトシジミ
すれすれに籬の上を越えていくヤマトシジミの後姿よ
人知れず灰色の歌をうたうなりヤマトシジミとはよくぞ言いける
低き声で過ぎし昔を偲ぶなりヤマトシジミとはよくぞ言いける
ソット・ヴォーチェで過ぎし昔を歌うなりヤマトシジミとはよくぞ言いける
障碍者の介護に追われし三十年まだ海外に行けぬわが妻
プールには死体がひとつ浮いている
鎌倉や私の好きな古い家
鎌倉やカメラを禁ずる寺院あり
鎌倉や会うのは老人ばかりなり
瑞泉寺節子が棲みし庵あり
鎌倉や家建てる人こぼつ人
ジャックタチによく似ていた今は亡き僕の鎌倉の伯父さん
あらホントでもそんなことどうでもいいのよ
五の指を綺麗に伏せて眠る妻
人を怒鳴り黒き胆汁流れ出す
わが怒り黒き胆汁流れ出す
累々と死骸並ぶや秋の道
立冬や犬の絵を描く男あり
立冬の夜に死にたる屁こき虫
鳴きながら死んでしまった油蝉
油蝉ムンクのように叫んでいる
丸ビルをダイナマイトで爆破して元の姿に建て替えるべし
この色とこの形に惹かれてかすべての人は烏瓜盗む
何故にそなたは烏瓜に手を伸ばす橙色の卵に惹かれて
80にも90にもなりて自らを僕と書ける人の図太き神経
さびさびと霜月朔日にセミが鳴く
妻子去り寡暮らしの家ありて2階の窓にベゴニア咲きたり
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