Saturday, May 14, 2011

林望の「謹訳源氏物語五」を読んで

照る日曇る日第429回

庇護者の源氏や朝廷の名だたるイケメンたちから愛を乞われた内大臣の隠し子玉鬘だったが、結局は髭もじゃのださいオッサンの手中に墜ち、こんなはずではなかったと後悔するのだがもはや後の祭り。あっという間に赤子を孕ませられてしまう。若い娘は昔からよくある蹉跌をまたしても繰り返してしまうのだった。

昔といえば紫式部の平安時代においても現代よりは昔の文物の方がはるかに優れていたと振りかえられるのであるが、では大陸と朝鮮半島から渡来した平城京の時代のヒトモノカルチュアがどれほど国風文化の藤原時代に勝っていたのかははなはだ疑問である。

しかし紫式部は、例えば源氏が六条院で主宰した香合わせにおいても、前代の到来物の香木の馨の深さには当代の新品なぞ物の数ではないと源氏と共に断言しているから、まあそれはそうかもしれない。法隆寺の蘭奢侍は後代の義政や信長が切り取って珍重したと伝えられる伝説の香木だが、その原産地はベトナム、タイ、インドなどの諸説が入り乱れているそうだ。

本巻の「梅枝」では、沈香でこさえた箱の硝子細工の容器の中に、「黒丸」と「梅花」という銘の二つの薫香が登場するが、おそらくこれは道長の時代につたえられた銘木であっただろう。わたしも源氏や紫の上や明石と夢の中で同席して、その芳香に酔いしれてみたいものだ。

子等揃い菖蒲湯に浸かるめでたさよ 茫洋

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