Sunday, May 15, 2011

ダニス・タノヴィッチ監督の「ノーマンズ・ランド」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.124

1992年~95年のボスニア紛争をテーマにした戦争映画。ボスニア、セルビア両軍が対峙する塹壕の中で起こった小さくて大きな事件を描く。

今となってはどちらがどう悪くて起こった戦争なのかもはや誰も論じようとはしないが、ともかく人間の憎悪が戦争を引き起こし、いったん起こってしまえば、それは戦争の論理に従って自動的な敵対と機械的な殺戮行為が連鎖する。

この映画では本来は友好的な隣人であったはずの兵士たちが、おのれの人倫の最低の鞍部で相手を非人間化し、殺戮し、抹殺しようとしておのれも1個の野獣と化すありさまをじっくりと見据えている。

負傷して横たわっている間に敵の地雷を仕掛けられた兵士は、立ちあがったり、身動きしただけで五体が吹き飛んでしまう。それを知った両軍と国連軍の兵士、さらにはテレビ局の取材チームなどが不運な兵士の命を救おうと奔走するのだが、結局は万策尽き果てて無人地帯の現場から退去してしまう。

背中に爆破装置をつけられたまま無為に死を待つしかない人間とは、ほかならぬ我々自身のことではないだろうか。

被災地より連れて来られし隣家の犬来る朝ごとにわんわんと鳴く 茫洋

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