鎌倉ちょっと不思議な物語第158回
大船には神奈川県立の大きな植物園、大船フラワーセンターがある。ここは観賞植物の生産振興と花卉園芸の普及を目的として、昭和37年に神奈川県農業試験場の跡地に開設されたが、大正時代からこの地で改良・育成された170種の芍薬、200の花菖蒲や360の薔薇、50の石楠花や躑躅、100の牡丹、300の洋蘭、200の椿、40の桜などを中心として四季折々におよそ5千余種の植物が公開されている。
この節はやたらと背が高くて大きな青い花が咲くテイオウダリアが人気だそうだ。
私が訪れた11月の下旬は恒例の菊花の展示会が開かれていたが、一口に菊というても、これほど多種多彩な菊の仲間があるとは夢にも思わなかった。多年にわたる品種改良の賜物なのであろう。
私はロティのお菊さんやベネディクトの「菊と刀」、漱石の三四郎の団子坂の菊人形見物の浪漫的なくだりを思い出しながら、コンテストに当選した華麗なchrysanthemumの数々を眺めていると、いつのまにかその強烈な芳香に頭が次第にのぼせていくのを覚えた。
菊は見た目も典雅であるが、その匂いがまた格別香ばしい。少年時代にたった一度だけ見た枚方の大規模な菊人形の圧倒的な展示を前にして、生まれて初めて花に酔った記憶が突如よみがえったことだった。
枚方の厚物咲きの菊人形曽我兄弟が祐経討てり 茫洋
丹波なる綾部の街の由良川のほとりに咲きし大輪の菊 茫洋
No comments:
Post a Comment