Saturday, November 01, 2008

鎌倉交響楽団の「マーラー5番」を聴く

♪音楽千夜一夜第49回&鎌倉ちょっと不思議な物語146回


秋晴れの土曜日のマチネーで第92回の定期演奏会が開かれ、鎌響がマーラーの嬰ハ短調の交響曲を取り上げました。全5楽章、演奏時間およそ80分の大曲です。

こんな難曲をつつがなく終えられるのかと案じていた私でしたが、第1楽章のはじまりのトランペットの正確で、厳格な、荘重なファンファーレの吹奏を耳にして、今日の演奏の成功を確信しました。

この曲では金管楽器がその能力の極限まで試されますが、鎌響の各パートは見事にその試練に耐え、とりわけホルンの美しい音色は満場の観客を完全に魅了したのでした。

第二、そして第三楽章のブラスの咆哮とパーカッションの雷電、それらを下支えする弦の重層低音は、指揮者の横島勝人の知と情を兼ね備えた情熱的な棒さばきによって透明に溶解し、マーラーの精神分裂症気味の錯綜したスコアの尽きせぬ魅力を、まるで手に取るように、隈なく白日の下に暴きだしました。

 音を割った金管の舞踏がようやく終わると、それは弦楽器とハープによって奏でられるまことに甘美なアダージェエットの総奏です。きわめてゆっくりと13挺ヴィオラから開始された夢見るような旋律は、9挺のチエロと、おなじく9挺のコントラバス、それからおよそ30挺の第1、第2ヴァイオリンに受け渡され、まるで初夏の相模湾の青い海を渡るアサビマダラのように高く、低く飛翔してゆきます。これほど美しいため息の出るような音楽を聴いたのは久しぶりのことでした。

 曲はそのままアレグロのロンド・フィナーレに突入し、またふたたびの管と弦の狂想的輪舞が開始されましたが、よほど練習を重ねたのでしょう、われらが手だれの鎌響の演奏はますます熱と光と輝きを増し、とうとう歓喜あふれる大団円になだれこんだのでした。

 これほど素晴らしいマーラーの演奏を地方の一ローカルオーケストラがやってのけるとは! 音楽のよろこびに満たされ、このささやかな幸せを抱きしめながら夕べの家路をたどる私の胸には、マーラーの5番がまたしても高らかに鳴り響くのでした。

♪いま聴きしグラン・フィナーレが高鳴るよ 鎌響定期のマーラー5番 茫洋

♪マーラーのアダージェエット聞けばわれは蝶 海の彼方に一人旅立つ 茫洋

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