Wednesday, May 23, 2012

ロバート・マリガン監督の「アラバマ物語」を見て




闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.253

原題はTo Kill a Mockingbirdで、「モッキンバード(マネシツグミ)を殺すこと」は良くないとこの映画の原作者ハーバー・リーは言いたがっている。物語の場所は確かに60年代のアメリカ南部アラバマ州の田舎町だが、日本の映画会社が勝手に題名を付け替えるのには後々まで迷惑する。「勝手にしやがれ」は「息も絶え絶え」、「大人は判ってくれない」は「400回の殴打」であるべきだ。

さてさて、この映画の表向きの主題は「南部アメリカにおける人種差別問題の告発」であり、無実の罪で告発された黒人を正義の味方である白人弁護士(グレゴリー・ペック)が身を挺して守ろうとする背筋をピンと張ったお話だが、世の中のマネシツグミ的な存在の大切さをアピールすることこそ、この映画のもっと重要な隠されたテーマなのである。

マネシツグミは南米を中心にアメリカに棲息するツグミの仲間であるが、美しい声で囀り、他の鳥と違って人間に害を与えない鳥らしい。

父親は子供たちに「射撃が上手になって鳥を撃つような日がきても、無害なマネシツグミだけは撃ってはいけない」と諭すのだが、じつは孤立無援で村八分にあいそうになる父親の危機をその裏側で救うのは、彼の幼い愛娘であり、その隠れた友人の知的障碍者(ロバート・デュバル)なのである。

この映画では、喰うか食われるか白黒激突の修羅場を危機一髪の瞬間に割って入り、その対立を思いがけない方向から解消するのは、「弱くて無力なモッキンバード的な存在」であることがワーグナーの「パルシファル」のようにものやわらかに示唆されている。

 それにしてもこういう局面で命懸けで戦う正義漢を演じたら、我等のグレゴリー・ペックに敵う者はいない。無実の罪に問われた青年を弁護して引き上げる弁護士を称えて2階席の黒人の全員が起立するシーンは、思わず涙が出るほど感動的だ。


新しいバベルの塔が建ちましたいさあさ皆さんご一緒に 蝶人

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