Sunday, May 27, 2012

国立劇場開場45周年記念「三人吉三巴白波」のビデオを見て




音楽千夜一夜  258 

国立劇場開場45周年記念公演として2012年新春歌舞伎で演じられたのが、河竹黙阿弥原作「三人吉三巴白波」の通し狂言だった。

4幕7場の全幕を演じたのは、和尚吉三が松本幸四郎、お嬢吉三が中村福助、お坊吉三が市川染五郎という主役トリオだったが、もとより黙阿弥の代表作品の面白さを味わうぶんに過不足はないものの、役者の演技といい、長唄、義太夫の演奏レベルといいどうしようもない弛緩と質の急激な低下を感じた。

わたしは清元志壽太夫が世を去り、歌右衛門、芝が亡くなり、最高の音質を誇る歌舞伎座の取り壊しが決まって以来、歌舞伎見物に出かける機会がほとんどなくなってしまったが、それにしてもこのライヴ映像記録に見られるこの三人組のつまらなさはどうだろう。

幸四郎は大学生時代とかわらぬ皮相な謹厳実直ぶりだし、いくら力んでも腹から声が出ない染五郎、女形としての色香が皆無な福助の揃い踏みからは、江戸歌舞伎の豪華絢爛な栄華の片鱗すら漂ってこない。

わたしがいま見たいは亀治郎改め猿之助と香川選手改め九代目中車が出る歌舞伎公演だけだが、玉三郎、吉右衛門、海老蔵、勘三郎などがぐあんばっているいま、更なる精進が望まれる。

その文を読めばその音楽を聴きたくなる吉田秀和翁みまかりぬ98歳 蝶人


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