Sunday, February 19, 2012

文化学園服飾博物館で「ペイズリー文様 発生と展開」展を見て

ふぁっちょん幻論第67回&茫洋物見遊山記第77回

ペイズリー文様といえばただちに思い浮かべるのが1947年に製作された吉村公三郎監督の「安城家の舞踏会」。その前半部で原節子が着こなしていた大胆なペイズリー柄のワンピースであります。その大柄な装飾柄が、没落する桜の園でけなげに生きようとする彼女の役柄にふさわしい雰囲気を醸し出していました。

本展の資料によれば、ペイズリー文様の起源は、インド北部カシミール地方の可憐な花模様だそうですが、これがインドの染織品と共に18世紀に入った欧州で大流行を遂げ、それが更にアジア、アフリカ諸国の文様と複雑多岐に融合し、その混合物がまた全世界に波及するという一大トレンドを醸成したようです。

18世紀の末から19世紀はじめの欧州は、例のアールヌーボーの隆盛期だから、有機的なものと無機的なもの、植物と鉱物の融合を目指したこの歴史的な文化工芸運動とペイズリー文様はピッタシカンカンのコラボレーションを繰り広げたに違いありません。
当時英国で産声を上げたリバティプリント社や、のちのイタリア・エトロ社の装飾的なファブリックの源流も、すべてここから発しているのでしょう。

大きな涙を垂らしたようなペイズリー柄を見ると、生物のもっとも基本的な単位である細胞の顕微鏡写真によく似ています。ペイズリー柄は、生きとし生けるものの生命の原核を象徴するデザインであるだけでなく、それを身にまとう者に不滅の生命を賦活する呪術的な文様でもあるのでしょう。

人々と時代の生命力が限りなく沈滞し続けている現在、ペイズリー文様復興のビッグ・トレンドが深く静かに待機しているのかもしれません。なおこの展覧会は来る3月14日まで東京新宿の同博物館で開催されています。


神様の涙のようなペイズリー滅びゆく我らを優しく包まむ 蝶人

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