闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.199
私は仕合わせになってはいけないのですと恋人との結婚を拒む宮沢リエの娘。いやいやそんなことをしたって死んだ者は生き返るわけじゃない。その分まで幸福になっておくれと譲らぬ原田芳雄男の父。まるで歌舞伎の名場面のように江湖の紅涙をぐっしょり絞るこの映画最大の愁嘆場です。
1945年8月6日午前8時15分のその瞬間、父はまともにその光を身に受けたのですが、娘はお地蔵様の陰になって九死に一生を得る。これは近所にある鎌倉十二所の光触寺に安置された頬焼地蔵の逸話と同じです。
その父親が一人娘の身の上が心配で、死んでも死にきれない亡霊となって懐かしの我が家を出たり消えたりするという原作者井上ひさしの設定が心憎い。キャメラが家の上に移動していくと、それが原爆ドームの天井になるというラストシーンもことのほか印象的で、松村禎三の控えめな音楽もそれがかえって心を打つ。
わたしはこの秀作を世界中の人々に見てもらいたいと願わずにはいられませんでした。
雲見れば心哀しむまして愛犬ムクの形なればなおさら 蝶人
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