茫洋物見遊山記第78回&鎌倉ちょっと不思議な物語第256回
残念ながら既に終了してしまったが、今月の12日まで開催されていた恒例の「氏家コレクション」について走り書きしておこう。
「氏家浮世絵コレクション」というのは、浮世絵の海外流出を憂えた有徳のコレクター、氏家武雄氏が昭和四九年に鎌倉市と協力してここ国宝館に収蔵された世界的な浮世絵、なかんずく肉筆浮世絵の名品の数々で、今年も北斎、豊広、広重、雪鼎、長春、栄之の優品がおよそ五〇点展示されていた。
さすがに肉筆だけあって大量にプリントアウトされた通常の浮世絵とはその清新さにおいて断然優位に立ち、江戸期アーティストのカラフルで華麗な筆跡が生々しく目を射る。
どんな人物像を描いても生真面目で正攻法の硬さが抜けきらない大家葛飾北斎の「酔余美人図」や「桜に鷹図」、反対にどんな風物を描いても優雅なリリシズムを失わない広重の「御殿山の花図」、加えて西川裕信の「美人観菊図」や懐月堂安度の「美人愛猫図」など春近い古都で鑑賞するにふさわしい「無人の」展覧会であった。
それにしても、と私は思う。最近猫も杓子も大騒ぎのフェメールの良さなど私には皆目理解できず、タダで上げると言われても別に欲しくはないが、これらの肉筆画なら千万両を積んでも手元に置きたいと願うのだ。
こういう我々の先祖先輩が生みだした古拙な真の名人芸には目もくれず、舶来上等限定少数のフェルメール!?なぞにいともかんたんにうつつを抜かす軽佻浮薄な日本人のお芸術趣味が、明治以降の国産優品海外流出の惨を生んだのではないだろうか。
おお、今も昔も他人の花はなんと美しく見えることか! 蝶人
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