照る日曇る日第492回
ノーベル賞作家の2006年度の作品を読みました。
作家自身を思わせるペルー生まれのうぶな青年がリマ、パリ、ロンドン、東京、マドリッドを転々としながら運命の悪女を少年時代から激愛し、徹底的に入れ上げ、渇望しながら終始追いもとめ、たまにはセックスさせてもらいながらもまた逃げられ、翻弄され、日本ではヤクザのフクダに全部いいとこを持っていかれ、あまつさえ虎の子の貯金を入れ上げてもてんで悔いず、籍を作るために結婚してやり、またしても他の男に逃げられ、頭にきて娘ほど年の離れた若い女と浮気をしたり、それで頭に来た女が怒鳴りこんできたり、そうこうしているうちに2人ともどんどん歳をとり、とうとう万骨枯れて死病に取り付かれた女と再会した主人公は半世紀に及ぶ大恋愛の最後の瞬間をかのポウル・ヴァレリーが「海辺の墓地」を書いた南仏セトの海のほとりで大団円を迎えるのです。
モデルのような容姿、いたずらめいた濃いはちみつ色の瞳、ぽってりした小さな唇の持ち主にいちころで魅了された男性の半生記なのですが、そういう経験のないわたくしにはあんまり感情移入が出来ないし、このヒロインの魅力がいまいちのみこめない。でもきっとよっぽどチャーミングな小悪魔のようなファム・ファタールだったんでしょうな。
プルーストが言うように、あばたもえくぼ、すいたはれたも病のうち、虚仮の一念岩をも通す。信じる者はとうとう思いを遂げるんでしょう。されどよく出来た恋愛小説だとは思いますが、わたしにはてんで思いを馳せることすらできない絵空事の世界でした。
奇声上げらあらあ泣きながら走る人憎んでいるのはこの私とは 蝶人
No comments:
Post a Comment