Monday, September 27, 2010

今井彰著「ガラスの巨塔」を読んで

照る日曇る日 第376回

かつてNHKの辣腕ディレクター&プロヂューサーとして「プロジェクトⅩ」などの人気番組を企画制作した人物による実録風小説です。

「プロジェクトⅩ」はその音楽の変態的誤用や仰々しいナレーション、出演者の異様な興奮と突然の涙が気色悪く、一度もラストまで観賞したことはないのですが、著者によれば「НHKの看板番組」として一世を風靡したようです。

私にとっての看板番組は「サラリーマンNEO」「世界街歩き」「アグリーベティ」「なげやりな妻たち」「刑事コロンボ」「ダメージ3」「クラシック音楽番組とCMが入らない映画」「ブラタモリ」などですから、お互いの嗜好には相当の違いがありそうです。

それはともかく、多くの国民の疲弊した精神を鼓舞し、驚異的な視聴率を稼いだだけでなく、あらゆるテレビ賞を総なめし、当時「天皇」と称された権力者会長の庇護を受けて得意の絶頂に立った著者は、一時は次期役員最有力候補と嘱望されたようです。(でも、それがいったいどうしたというんじゃ?)

しかし折悪しく露見したプロヂューサーの製作費横領事件に端を発した聴取料不払い事件が起爆剤になって、天皇会長が辞任を余儀なくされると、それまで順風満帆だった著者の人生は一瞬にして暗転します。局内の反会長派の陰湿ないじめと弾圧に遭遇し、手塩に掛けた「プロジェクトⅩ」も終了となって心身ともにボロボロになった著者はとうとう退社し、根深い私怨のこもったこの本を書くことになるのです。

けれども視点を変えれば、著者のようなケースは私の身近にもざらにある話で、リーマンの栄枯盛衰は世の習い。あなたよりもっとひどい目にあったひとなぞ世間にはいっぱいいます。ただあなたが「天下のNHK」の有名人だったという素材の面白さだけで、「顰蹙を買うのが大好きな出版社の社長」があなたに眼をつけたのでしょう。

それよりも問題は「プロジェクトⅩ」終了の直接の原因となった室井ヶ丘工業高校の
放送内容です。あなたは先方の教師や学校側にだまされたと文句を言っていますが、客観的に見て致命的な誤謬を犯したのはあなたたち制作者側です。
事前のリサーチがいい加減だからこんないかがわしい人物を登場させたのですから、この番組に泥を塗ったのは隗自身なのに、それを棚に上げて学校や校長のせいにし、あまつさえ局内の上司や敵をうだうだあげつらうのは、ジャーナリストにあるまじき醜い振る舞いといえましょう。

本書を一読して驚くのは「みなさまのNHK」内部の魑魅魍魎の跋扈振りです。
1万人を超す社員のうち記者やディレクターなどの報道現場関係者は3千人なのに、事務管理部門が七千人を超えているそうですが、これはちょっと多すぎます。国民からの大切な拠出金を預かりながら、彼らは一体どういう仕事をしているのかとても気になりました。

著者の言い分を信じるにしろしないにしろ、「みなさまのNHK」は、この際一度解体して再出発する必要があるのではないでしょうか。



私の好きな女子アナなど大海に漂うアブクのようなものなんだなあNHK 茫洋

No comments: