Monday, September 27, 2010

光明皇后1250年御遠忌記念「小泉淳作展」を見る

茫洋物見遊山記第38回


日本橋高島屋で開催されていたご近所の絵描きさんの展覧会へ行ってきました。今年86歳になられた小泉画伯が平成遷都1300年、光明皇后1250年御遠忌を記念して東大寺の本坊に奉納された40面の襖絵が中心となった個展です。

会場に入るといきなり眼に飛び込むのがあざやかに咲き誇る蓮池のハス。深々とした緑の葉のあちこちに顔をのぞかせる紅白の花々は、大小の花弁だけでなくガクとシベの1本1本の色や形に画然とした個性が感じられ、全体の構図のみならず細部の近代的な表現力が際だっています。東大寺の蓮池とこの日本画の蓮池が対峙する初夏にいちど現地を訪れてみたいものです。


次には画伯がはじめて挑戦した3つの桜の襖絵です。浅緑の草原をバックに絢爛と咲き誇る桜の花弁は画伯が「賽の河原に小石を積むように」1枚1枚丹精込めて描きあげられたもので、その老いての苦労がしのばれます。「吉野の桜」の6本の桜の構図はじつに巧みに構成され、樹から樹へ、枝から枝へ、花から花へと画家が灯もした生命のみなぎりが伝えられていくようで、ある種の感慨を誘います。というのも画伯が2階のアトリエで電気を煌々とつけたまま制作に励んでいられる姿が自宅から時々見えたからですが。

画家にとって初めての題材を扱い、珍しくや全面的に可憐なまでに洗練された多色遣いで至純の新境地に挑まれた今回の作品は、氏の晩年を美しく彩る記念碑的なマイルストーンになったとはいえ、私は依然として彼の真骨頂は往年の精神性豊かな墨絵にあると確信しています。

今回会場の出口にさりげなく並べられた墨一色の「大根」の絵や、まるで1匹のうごめく動物のように躍動する全山の生動を静寂の1幅に閉じ込めた「岩木山」の力技こそは、平山郁夫のインスピレーションのかけらもない画業を大きく凌駕し、横山大観の幽玄の世界に肉薄する日本画界の最高峰のひとつといえましょう。

*なお本展は来月の横浜など全国の高島屋主要店にて巡回展示されるそうです。



  一本の腐りかけたる大根の葉っぱに咲きたる白き花かな 茫洋

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