♪音楽千夜一夜 第158夜
これはウイーンではなくミュンヘンでのバイエルン国立歌劇場での1979年初夏のライブ収録です。
まず演出ですがオットー・シェンクの保守的でオーソドクスな設計、装置、衣装、色彩がよろしい。ホフマンスターが設定したこのオペラの脚本の舞台は1740年から80年にかけての女帝マリア・テレジア時代のウイーンなのだから、そういう時空で物語を展開してほしい。最近の演出はみなとち狂っている。
それから演奏では冒頭の序曲が大切で、これがうまくいくとあともうまくいく。
舞台では伯爵夫人マルシャリンとその恋人カンカンとのみだらな情事が繰り広げられていて、その性交がクライマックスに達した時に、3本のホルンが彼らのオルガスムスをいななく。
シュトラウスは男性の硬いものが女性器に3回グルングルンと突きいれられた瞬間をリアルに楽譜にしているのに、多くの(良識はあるけれど)凡庸な指揮者たちときたら、この箇所をあいまいにぼかして演奏している。
しかしさすがにクライバーは、このとき指揮棒を持った右手をスコア通りに3回グルングルンとえぐっているところが映し出されるので、「お、分かってるね。さすがクライバー」となるのであるんであるん。
清純で無垢な商人の娘と結婚することになったオックス男爵のセクハラも相当なもので、女と見れば誰にも手を出すドン・ジョバンニそっくり。これほど男尊女卑の図もあまりないけれど、男爵のいとこである伯爵夫人だって、夫の出張の合間に若い燕と浮気しているのだから、どっちもどっちです。
しかし前に触れたことがあるが、シュトラウスときたらよくもこんな卑猥な公序良俗に反する「いけないオペラ」を書いたもんだ。当時も不道徳だとして賛否両論があったそうだが、私はいまでもだんぜん上演禁止にするべきだと思います。
クライバーは絶好調で、ときおり楽員にウインクしたりしながら歯切れよく演奏しているが、有名な幕切れの絶唱以上に素晴らしいのは第1幕の終わりの伯爵夫人のアリア。恋人との別れを予期する切々たる歌に、当夜涙しない観衆はひとりもいなかっただろう。まことに一期一会の名演奏である。
配役は伯爵夫人のギネス・ジョーンズとオクタビアンのブリギッテ・ファスベンダーが素晴らしい。ソフィー役のルチア・ポップも好演だが、この人は昔はひいきにしていたのだが、あんな可愛い顔をしているくせに、カルロスにひどい仕打ちをした(クライバーの伝記上巻を参照のこと)そうなので、あえて絶賛はしない。いくら故人になってもファンの恨みは根深いのである。
歌ひとつ詠まずに旅から帰りけり 茫洋
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