副題に「早川龍雄氏の華麗な映画宣伝術」とあるので、もしやあの早川さんではないかと思って読んでみたら、やはりそうでした。
早川さんはワーナーブラザースの映画宣伝プロデューサーを30年務められ、この業界では知らない人はいないくらいの熱狂的な万年映画青年です。私が映画に夢中であった80年代の真ん中ごろによく試写会の招待をいただき、彼が大好きだったウディ・アレンの「カイロの紫のバラ」やジョン・アーヴィングの「ガープの世界」などを見せていただいたものです。
今考えるとウディ・アレンの作品などを大手のワーナーブラザースがよく取り上げたと思うのですが、こうした興業上大きなリスクをともなうマイナーな作品を、早川さんが物の分かった上司の佐藤さんとの絶妙なコンビで危うく没になるところを拾い上げ、スクリーンに日の目を見せてくれたことは隠れた大きな功績だと思うのです。
当時キネマ旬報などの映画雑誌に時折映画感想文などを書いていた私は、ある日新橋の裏道にあるチャンコ料理屋に誘われ、ビルとビルの谷間にある不思議な細道を入っていくと、そこに早川さんとマガジンハウスの編集のSさんと講談社の雑誌誌の編集のHさんが待ち構えていて、4人でウディ・アレンの話になり、2時間後にはブルータスとホットドッグに原稿を頼まれることになったことをいま思い出しました。
映画パブリシテイの世界に早くから足を踏み入れ、マスコミ、雑誌新聞メディアに幅広いネットワークを持っていた早川さんは、私のような門外漢に対してもざっくばらんに胸襟を開き、その道のプロへの紹介の労を惜しまず、お酒だけを口にしておのれの映画への愛を滔々と語る人でした。
その飾らない真摯な姿勢は三島由紀夫や黒澤明、クリントイーストウッドやマシュー・モディーン、キャスリン・ターナー、ハリソン・フォード、ティム・バートン、メル・ギブソン、淀川長治、川喜多和子、淀川長治などの内外の映画関係者にもすぐに通じたようです。
黒澤に愛された早川さんは、彼とスピルバーグの仲介役をつとめ、それが縁となって製作費が捻出されてあの素晴らしい黒澤作品「夢」が誕生したことを私はこの本ではじめてしりました。
♪池波正太郎が大好きできっぷのいい江戸っ子の早川さん、いつまでもお元気で! 茫洋
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