Friday, October 16, 2009

「皇室の名宝―日本美の華」第1期展を見る

茫洋物見遊山記 第1回


秋晴れの一日、上野の国立博物館で「皇室の名宝―日本美の華」第1期展を見てきました。まだ会期が始まったばかりの午前中だというのにかなり混雑していました。あと1週間もすればまたもや平成館おなじみのぐるぐる巻き大行列が始まるのでしょう。

怖いもの見たさの行列というなら分かりますが、有名もの見たさのにわか美術ファンがこれほど急増するとは、だれも思っていなかったのではないでしょうか。まことに天下泰平、文明文化爛熟の平成の御代でございます。

さて今回の展示の目玉は、もはやわが国の美術界に不動の位置を築くに至った伊藤若冲と酒井抱一です。20年前には10人中の9人までが見向きもしなかった奇想派と江戸琳派の泰斗がこのように千客万来の人気者になろうとは、泉下の2人もさぞや苦笑しているに違いありません。

 その若冲の代表作である「動植綵絵」は、以前江戸城内の三の丸尚蔵館で何幅かずつシリーズで公開されたおりに圧倒的な感銘を受けたものですが、本展で全30幅が一堂に並んでいるのはまさに壮観というべく、陸海空に溌剌と跋扈する鳥や魚や草花たちが泰平楽を奏でるさまに見入るのは、さながら東叡山の楽園に遊ぶがごとき至福の眼福でした。

とりわけまっさかさまに落下せんとする雁の大胆無比な構図や、レオナルド藤田に影響を与えたと思われる鶴や鸚鵡の銀色の発色などは何度眺めてもため息が出るばかり。北斎、広重におさおさ劣ることのない名人芸ではないでしょうか。

それから忘れてはいけないのが、その端倪すべからざる力量を存分に発揮した酒井抱一の12幅の連作エドカランドリエ「花鳥一二ヶ月図」です。いずれ劣らぬ名品ですが、すでに六三歳になんなんとする頃合いの作品なのに構図の切れ味はするどく、色彩は赤の鮮やかさとくにめでたく、さすがにお大名らしい揺るがぬ気品が全幅にみなぎり、老境をものともせぬ芸術の夕映えのなんという華やぎでしょうか。

会場にはそのほか横山の大観選手や川合の玉堂、橋本の雅邦選手の力作などもあるにはありましたが、若冲や抱一両選手と比べられてはいくらなんでも相手が悪すぎます。本物の芸術の格の違いを、思う存分に見せつけられた展覧会でした。

最後に一言。「皇室の名宝」などと高らかに謳ってはいますが、しかしてその実態は玉石混交、中には名宝の名前が泣くような駄品も堂々と陳列してあるので要注意です。



♪玉もあれば瓦礫もあるよ楽しみ尽きぬ皇室名宝展 茫洋


♪蛇蛙蟷螂たちのなんと楽しく生きておること烏賊蛸鯛たちのなんと楽しげに泳いでいることよ 茫洋

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