Thursday, October 01, 2009

アーサー・ペン監督「俺たちに明日はない」を見て

闇にまぎれて bowyow cine-archives vol.11

どうして原題の「ボニーとクライド」が「俺たちに明日はない」に変身したのかわかりませんが、アメリカ30年代の大不況期に銀行強盗を繰り返した若い2人が主人公の悪漢映画という名の恋愛映画であります。

冒頭、田舎町のしがないウエイトレスが満たされない生と性の欲求にもだえている。そこに刑務所から出てきたばかりのかっこいいあんちゃんが現れて、目と目がふとしたはずみで出会う。ここから運命の恋がはじまります。

クライド(ウオーレン・ビーティ)はテキサス一かっこいい美女ボニー(フェイ・ダナウエイ)を見染め、彼女のためなら盗みでも殺人でもなんでもやろうと心に決め、そのみえのために実際即座にそれを実行します。

そしてそれ以降の強盗行為と逃避行はその最初のもののはずみのあとの一瀉千里の玉突き行為の結果にすぎません。

2人が若い手下をリクルートしたり、クライドの兄夫婦が犯罪グループの仲間入りをしたり、強盗団がテキサス・レンジャーを捕まえてなぶりものにするエピソードもあくまでもこの映画の付けたたしであって、この映画の本当のクライマックスは、逃走劇の最後に、性的に不能であったはずの男がどういう風の吹きまわしか初めて女と性交することに成功し、「どうだった?」と恐る恐る尋ねたクライドに、ボニーがはずかしそうに「良かった」と答えるシーンにあるのです。

女の言葉は多少ともリップサービスであったとしても、男の方はこれは絶対うれしかったに違いありません。クライドはこの瞬間銀行を襲ってドルの札束を手に入れたときよりもはるかに大きな満足と生きる喜びを味わいます。

実際画面に目を凝らすと、このシーンからの2人の表情は、それまでのプラトニクな恋愛の陰影ではなくて激しい性愛の燃えるようなよろこびに彩られており、突如百千の銃弾によってそれが断ち切られるその瞬間まで、ボニーとクライドは人生でもっとも充たされた時間を生きたといえましょう。


♪性愛の讃歌非情の銃弾テキサスの荒野にこだませり 茫洋

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