茫洋物見遊山記 第2回
ロンドン生まれの若き劇作家マーティン・マクドナーの話題作『コネマラの骸骨』を見物してきました。これはアイルランドのリーナン地方を舞台にした、はちゃめちゃに面白いどたばた活劇シリーズの第2作で、第1作の『ビューティークイーン・オブ・リーナン』と第3作の『ロンサムウエスト』はすでに同じ劇団の「円」の手で上演されています。
あらすじや批評などは別のところに書いてしまったのでここでは繰り返しませんが、マクドナーの芝居の第1の特徴は、いずれも人間の心の奥底に潜んでいる狂気や殺意や孤独を恐ろしいまでに深々とえぐり出している点にあります。
しかもそれらの表現がきわめて恣意的、発作的、痙攣的に展開されるように見える点に第2の特色があります。マクドナーは、いわば演劇の即興性とでもいうべき境地を目指しているようです。はしなくも今回の上演では、それが劇場狭しと飛び交う「骸骨の百叩き」ジャムセッションという形で露呈しました。
3番目には「聖なるもの」と「性なるもの」への独特のこだわりです。神や教会や神父という宗教的権威に対する憎悪と反発はかなり度を越しているだけに、逆にそれが彼の生と倫理に生得のものとして厳しく粘着していることをうかがわせるのです。
性的な問題の取り扱いも興味深いものがあって、たとえばこの芝居の中で「男性の性器は涜神的であるから墓地に埋葬できないために業者が切断して飢饉に苦しむアイルランドの民衆にトラックで売り捌いている」という真に迫った冗談が出てきますが、そういう罰当たりなセリフをふんだんにまき散らすのがこの遅れてやってきた怒れる若者のお上品な本領と思われます。
真夜中の教会の墓地で、ランプを照らしながら妻の死体を掘り出す主人公……。しかしその荒涼とした光景よりも人間の魂の中の風景はもっと寒々しく、もっともっとおどろおどろしく、悲しくもはかないものであることに、この芝居を見た人はきっと気づくことでしょう。
森新太郎の演出はいつの間にか安心して見ていられるレベルに到達し、芦沢みどりのいつもながらの生き生きとした翻訳によるテキストを、山乃廣美、石住昭彦、吉見一豊、戎哲史の役者陣が好演しています。
また衣装の緒方規矩子が、原作者マクドナーを思わせる悪童マーティンに、英国の通信会社ボーダーフォンのロゴ入りTシャツをさりげなく着せていたことにいたく感銘を受けました。
♪半世紀遅れてやって来た若者マーティン・マクドナー怒れ怒れもっともっと怒れ! 茫洋
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