闇にまぎれて bowyow cine-archives vol.14
自分が大好きな人はいざ知らず、あまり好きでないからこそ人はもう一人の自分を夢見たり、年甲斐もなく自分探しなる虚妄の旅路に出るのでしょう。
そういう元スポーツマンにうってつけの映画がこれ。パイロットや医師や法律家に次々に成り済ましてしまう実在の男フランク・ウィリアム・アバグネイルをモデルにした映画です。
アバグネイル役を演じるデカプリオと、トム・ハンクス扮するどこか間抜けなFBI捜査官との虚々実々のかけひきがなかなかおもしろく、クリスマスイヴになると寂しくなるデカプリオがオフィスでたった一人のトム・ハンクスに電話してくるところなぞ泣かせます。
それにしても六〇年代のパンナムのパイロットはよくもてたのですねえ。美人スッチーを何人も従えて空港を闊歩するかっこよさ! いまや飛ぶ鳥さえ憐れむ体たらくに陥ったわがナショナルフラッグの高給取りも、さだめしこのあで姿にあこがれて入社したのでしょうね。やってることは鳩バスの運転手とバスガイドさんと同じだというのに。
多重人格の持ち主ならずとも、千恵蔵の「7つの顔の男」でなくとも、人間はいくつものことなる性格や適性を内蔵していますから、アバグネイルのような別人格成り済ましも十分可能なはずですが、この映画のようにどこまでいっても「らっきょうの皮むき」状態となると自己同一性の喪失ということになって大変ですね。
そしてスピルバーグの映画作りもどことなくこの「らっきょうの皮むき」に似ていて、それぞれの皮(作品)はそれなりに面白いのだけれど、所詮はらっきょうの皮にすぎなくて、見終わってしまえば「それでどうしたの?」と観客がみな口をそろえて言うので、スピルバーグは仕方なくまた「新しいらっきょうの皮」を見せなければならなくなるというわけです。
♪一枚また1枚らっきょうの皮めくるめくわが人生 茫洋
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