茫洋広告戯評第7回
昔からサントリーという会社はCMが上手でしたが、最近は「ボス」の宇宙人ジョーンズ、「ウーロン茶」などをのぞいてかなりクリエイティブのレベルが下がっていたと思います。おそらくは会社か社長の方針が営業至上主義になってクリエーターに対してさまざまな圧力が加えられた結果、遊びの精神が枯渇してしまったのではないでしょうか。
と思っていましたら、久しぶりにこれは傑作という広告が登場しました。「いやなことはお茶に流そう」というお茶の新製品の広告です。これはもちろん「嫌なことは水に流そう」のもじりですが、単にそういう語呂合わせやパロディの領域を超えていまの生きづらい世相をさらりと無化しようと試み、ほんの一時ではあるけれど、それに成功している点が尊い。なまなかにお茶に濁したり茶化せない骨太の主張と堂々たる風格さえ備えた、さすがはサントリー、流の広告であると思います。
こんなコピーは昨日や今日のポット出には絶対に書けません。海千山千のてだれの筆のすさびでありましょう。これと同時期に「同じ水で生きている」という南アルプスの天然水の広告も出ましたが、こちらのほうはいまいち、いま2.しかしライバルのキリン生茶の「買ったら読み取るのちゃ」という広告のレベルの低さに比べれば、両社の志の高低はあきらかでしょう。
もうひとつはサンアドの葛西薫さんのディレクション、安藤隆さんのコピー「君と百まで」によるおなじみのウーロン茶の広告です。母と娘、そして茶を入れた2つのグラスをバックに、この珠玉のような、あるいは血と汗の結晶であるこのコピーが、ただそっと並んでいるだけの地味な広告ですが、眺めているうちにまたしてもかすかに涙腺がゆるむのを覚えるのは、このゴールデンコンビの手練の仕業に違いありません。
♪南洋の桜といわれしジャカランダ桜に勝り毅然と咲きおり 茫洋
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