Friday, May 22, 2009

佐藤賢一著 小説フランス革命3「聖者の戦い」を読んで

照る日曇る日第258回

名もなきパリの民衆、とりわけ下町の女性や弁護士デムーランなどの大活躍でベルサイユの国王や王妃をパリに「奪還」したわけですが、貴族たちが国外に逃亡した後の三部会、いや国民議会は肝心の憲法を制定するどころか右派と左派、そしてバチカンの顔色をうかがいながら保身にきゅうきゅうとする聖職者たちの間で、フランス革命のイニシアチブをめぐって果てしなき混迷が続けられます。

さて本巻に登場するのは、これまでにもめざましい活躍をしてきた以下の面々です。

まずはライオン丸こと伯爵ミラボー。議場で獅子吼すれば泣く子も黙るこの陰謀家は、あろうことか革命の大義を裏切ってひそかにフランス王ルイ16世に急接近しようとするのです。この術数にたけたプロバンスの貴族は、なぜかヴェルディのオペラ「椿姫」に出てくるアルフレードの父ジェルモンを思い出させます。

さらにはオータンの司教にして議会の小澤的黒幕タレイランや国民衛兵隊司令官とパリ方面軍司令官を兼務してルイ16世の覚えもめでたいアメリカ帰りの白馬の騎士ラ・ファイエット将軍。こういう海千山千の政治家たちが議会の三頭派デュポール、ラメット、バルナーヴなどの頭越しに憲政を壟断しようと暗闇でうごめいています。

のちに恐るべき独裁者に成り上がるロベスピエールやマラー、デムーラン、快男子ダントンなどはまだまだひよっこのようなちっぽけな存在ですが、やがて彼らが次第に頭角を現して彼ら守旧派の親玉たちを歴史の表舞台から退場させるのです。

過去の名著のみならず英米仏など内外の最新フランス革命史を参照しながらこれらの個性的な革命家たちの群像をあざやかに屹立させる著者の手腕は見事なものです。そしてはねっかえりの革命児サン・ジュストがロベスピエールに接近していくところで全一〇巻シリーズの第三巻が幕を閉じるのですが、続く第四巻の登場がこの秋とはなんと待ち遠しいことでしょう。


♪革命の光は失せて二〇〇年いずこへ消えしや自由平等博愛 茫洋

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