闇にまぎれて bowyow cine-archives vol. 2
ドストエフスキー原作、ルキノ・ヴィスコンティ監督による「白夜」を鑑賞しました。
これは57年に製作され、日本では翌年に公開されたモノクロ映画ですが、はじめて見たとときには運河を滑るように流れる船に乗った恋人たち(マリア・シェルとマルチエロ・マストロヤンニ)を照らす光と影の美しさに、ここはヴェネツイアかセーヌかノヴァ河かとキャメラと照明の素晴らしさにいたく感嘆したものです。
それは確か小舟が画面の左から右に動いていくシーンであったこともありありと覚えているのですが、この「白夜」を何回見てもそのカットは出てこないのです。
それどころか何回か見ているうちに、この映画は運河のロケではなくセットで撮影されており、堀割を流れる水もびくとも動かないことが理解されるにつれて次第に興が冷め、あの幻の光景はどうやら別の映画だったらしいと確信するに至りました。(どなたかそんな私の夢の映画を、それはこれだとご教示いただけたらとてもうれしいのですが)
それはともかく、この不滅の恋の物語、奇跡のような愛の物語を、ヴィスコンティはものの見事に描いています。マリア・シェルとマルチエロ・マストロヤンニのご両人は、ヴィスコンティに演出されたマリア・カラスのように好演していますが、それよりも特に印象に残るのは、マストロヤンニの恋敵に扮したジャンマレーの素晴らしさ。これは恐らくマレーの最後の映画作品だと思われますが、あの立派な顔とがっしりした体躯がスクリーンに姿を現しただけで耳目を強烈に惹きつけます。
コクトーと組んだマレーはどうも仏蘭西製の栗の花の匂いがしていただけないのですが、同じホモでもヴィスコンティと協働した時のマレーの奥深さはただものではない。人間を少し超えたギリシア神話の神さまのような神々しい存在感を漂わせながら、映画の最初と最後を彩るのです。
音楽はニノ・ロータ。大家にはまだ日が浅く、不器用に旋律を探っている初々しさが買えます。
♪朝比奈の峠の上のウグイスが貯金貯金と鳴いていました 茫洋
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