照る日曇る日第256回
インド洋に浮かぶモーリシャス島はセーシェル諸島のさらに南に下がったところにあり、マダガスカル島のすぐ東にあります。
モーリシャス島といえば、誰でもこの美しい南海の島を舞台にしたサン・ピエールの小説「ポールとウィルジニー」の悲恋を思い出しますが、著者はこの18世紀末のベストセラーを頭の片隅におきながら第1次大戦前後の時代を背景に、同じ島を舞台にしたある多感な少年の物語を描きだしました。
少年の思いはつねに帰っていくのです。幼い日に父母や姉たちと過ごした懐かしい家や庭や木や花々や鳥の鳴き声や海に躍る魚たちの銀鱗への郷愁に。
少年は優しく美しい母の声の響きを、緑なす谷間の奥に聞きます。そこには逃亡奴隷の大海賊が白人に投降することを拒んで身を投げた切り立った岸壁があるのです。
少年は夢想的な父親が遺した地図を頼りに、モーリシャス島の隣にあるロドリゲス島にわたって海賊が岩山の奥に隠した財宝を捜そうと何度も試みるのですが、残念ながらそれはついに発見されません。
少年が求めていたもの、それは黄金ではありませんでした。懐かしい家族との再会、ゼーダ号のプラドメール船長との最後の航海、それにもましてあの美しい少女ウーマとの愛の暮らしだったのです。
「そのときウーマがふたたびぼくとともにいて、その体臭や息が感じられ、心臓の鼓動が聞こえる。ぼくたちはいっしょにどこまで行くのだろう。(中略)世界の向こう側にあって、空に現れる前兆も、人間たちに引き起こす戦争も、もう恐れたりせずにすむ場所まで?」
ここには主人公の少年にことよせたノーベル賞作家の見果てぬ夢がこめられているようです。
♪あんじぇらあきってなんじゃらほいあんたのおんがくよおわからん 茫洋
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