Sunday, February 24, 2008

スピルバーグの「シンドラーのリスト」を観る

照る日曇る日第102回

激突、ジョーズ、未知との遭遇、1941、E.T、トワイライト・ゾーン、カラーパープル、太陽の帝国、インディジョーンズ、ミュンヘンと常に話題作を撮り続けてきた世界の人気監督の93年の作品である。

彼の本領はなんといってもインディジョーンズなどの問答無用の娯楽にあると思う私は、プラーベートベンジャミン、カラーパープル、太陽の帝国など、非常に生真面目であったり、人道的、政治的色彩が濃厚に漂う作品はあまり評価できない。

例えば「太陽の帝国」におけるゼロ戦大好き少年のあこがれのまなざしのいかがわしさを見よ。光り輝く太陽の彼方に権力の栄光を夢見る少年のひとみは、そのままけがれなき永遠の童心少年、スピルバーグのものでもある。

さて本作は第2次大戦中にチェコの実業家シンドラーがナチにうまく取り入ってなんと1100名のユダヤ人の命を救ったという美談を、スピルバーグが映画化したもの。実話だそうだが、じつに感動的な脚本である。

特に素晴らしいのはヤヌス・カミンスキーの白黒の撮影で、これほどの美しさが果たして必要だったのかという気すらする。常連ジョン・ウイリアムズの珍しく抑制した音楽もベテランの味を出している。これをアカデミー賞にしなくてなにがアメリカだ、ハリウッドだ、といわんばかりのああ威風堂々の完成度だ。

しかしそんな立派な偉大な人類愛の物語であり、もちろん感動もするのだが、スピルバーグならではのワクワクドキドキする映画的感興はそこにはない。

あるとすれば、モノクロ画面でゆいいつ赤く着色される少女の姿やシンドラーの愛人の奔放な性交シーンであろうが、主題が主題であるだけにそれ以上の逸脱やいかがわしさの発露が微塵もない。

ユダヤ人であるスピルバーグがどうしても撮りたかった映画であり、その価値と歴史的な意味は十二分に評価してうえでいうのだが、これは凡庸な映画である。ジョーズやジェラシックパークを本領とするスピルバーグのようなエンタの達人に、大真面目に力みかえった偉人伝なぞ似合うわけがない。それは最後の主人公の演説のシーンで「もっと金があればもっともっと人を救えたのに」と泣くシーンを見れば分かるだろう。

スピルバーグといえば最近中国政府がスーダンの大量虐殺に対して誠実に対応していないという理由で北京五輪の芸術アドバイザーを辞任したそうだが、彼もまたシンドラーのような正義の人を目指そうとするのだろうか。


♪25年お世話になりし浴槽よさらばさらばと別れ行くかな 亡羊

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