♪バガテルop35&鎌倉ちょっと不思議な物語95回
家で寒さに震えていたらピンポーンと音がした。出てみる毛糸の帽子を被ったひとりの男が立っていた。私の近所の住人だ。
「年明けの今月の7日から自分の70代の母親が行方不明になっている。もし心当たりがあったらどんなことでも教えてほしい」といって手製のチラシを置いていかれた。
当地の行方不明者でいつも思い出すのはおよそ30年前の鎌倉花火大会のときに姿を消した戸塚の女子大生だ。当時早稲田大学の文学部に在籍していた彼女は、たしか専攻が考古学で、鎌倉の歴史古道やハイキングコースを頻繁に訪ねていたそうだが、8月10日の夜に由比ガ浜の海岸からふっつりと姿を消し、以来その行方はピーター・ウエアの映画「ピクニック・アット・ハンギングロック」の少女のように杳として知れない。
こういう言葉を安易に使いたくはないが、いわゆるひとつの神隠しにでも遭ったのであらうか。私が近くの里山を歩いている折など、ふとこの事件を思い出し、もしやここらで暴漢に襲われて谷間に転落したのではなかろうか、などと本人はもとより母独り子独りの母親のその後とあわせていつも気になっていた。
今回も地元消防団や町内会の人たち30名ほどがすぐに近くの山や川辺を捜索したのだが見つからなかったという。私も早速近所のハイキングコースをそのつもりで歩いてみたが、やはりなんの手がかりも無かった。
本人は足が悪いのでそれほど遠くにはいけないはずだが、事件発生以来すでに1週間以上が経過しているのでその生死が危ぶまれる。だれか悪い人間に誘拐されたり広域犯罪に巻き込まれた可能性がある。もしこの顔に見覚えがあれば、ぜひとも鎌倉警察署に連絡していただきたい。
♪粛々と死地に赴く銀の船 亡羊
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