Thursday, January 24, 2008

ある丹波の女性の物語 第45回 

遥かな昔、遠い所で第67回

 37年6月21日、その父が突然亡くなったのである。

 大津びわこホテルにおいて、信徒会の席上自分の抱負を語りつつ「イエス、キリストは………」の言葉を最後に倒れ、天に召された。

 父は自分の思う通りに生き、まさに天国への道をかけのぼっていったように思う。当時、中学2年の長女が、この祖父の死に就いて記しているが、この祖父の活きざまにひどく心を打たれたようである。

 「祖父の生涯は、祖父が好んでいた聖句―――我にとりて生くるはキリストなり、死もまた益なり―――そのもののように感じられた。」
 「私の心の中と写真の中の祖父は、今もなお、悲しい時にはなぐさめ、心配がある時には自信をつけ、嬉しい時にはいっしょに喜んでくれる。私は、永遠に、祖父の思い出、祖父の全てのことを、忘れる事はないだろう。」

父は生前好んだ白百合の花に、うずまるようにかこまれて葬られた。
 「血は水よりも濃し」というが、私は自分の生涯をふり返り、全然血のつながりのない父が、血縁のない私を心から愛してくれた事を感謝すると共に、血以上のものがあると思う。私がそう感じる一方、それ故に、父の死は夫に初めての解放感をあたえたと思う。

 父には何かの予感があったのか、死の前夜、私に色々と昔話を語り、「自分の一生は、時間に追われて暮らしているようなものだった。時間のかねが打つ度に、生命の縮まる思いで働きつづけた。お前達の一生暮らしていける貯えは充分してあるので、これからは自分達の生活を楽しみながら、ゆったりと過ごしてほしい」と語った。

 
登校を こばみしふたとせ ながかりき
 時も忘れぬ 今となりては  愛子

学校は とてもたのしと 生き生きと
 孫は語りぬ はずむ声にて  愛子

円高の百円を切ると ニュース流る
 白秋の詩をよむ 深夜便にて   愛子   (「深夜便」はNHKラジオ番組)

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